フォーク編<393>私のベストソング(2)

西日本新聞

 商品の小城羊羹(ようかん)が並ぶフロアの一角を、レコードやプレーヤーなどの再生装置が占めている。レコードは男女別、アイウエオ順にわかりやすく整理されている。

 佐賀県小城市小城町の中島羊羹本舗の3代目、中島隆(60)は「これですよ」とそのレコード棚から取り出してテーブルに置いたのが「私のベストソング」だ。中島みゆきのシングル盤「時代」である。

 「ラジオから流れる歌を聴いてすぐにレコードを買いに走りました。もう、ジャケットなどはぼろぼろになっていますが」

 「時代」は1975年に、中島の2枚目シングルとして発売された。隆は高校生だった。

 〈…まわるまわるよ 時代はまわる 喜び悲しみくり返し 今日は別れた恋人たちも 生まれかわってめぐりあうよ…〉

 隆は特に〈まわるまわるよ 時代はまわる〉というサビの歌詞が胸の中に入ってきた。以来、大学へ進学しても中島熱は高まるばかりだった。その魔力の圏内に引き込んだ一つは、中島がパーソナリティーをしていたラジオの深夜番組「オールナイトニッポン」を聴いたことだ。

 「歌は暗いイメージですが、ラジオでの話し方は軽快で明るい。そのギャップにもまいりました。東京のラジオ局まで行って、入り待ち、出待ちをしたこともあります」

 もちろん、地元のコンサートにも駆けつけ、レコードはLP、シングルとも完全に収集した。

 「今も聴き続けていますが、音楽はその時代に一気につれさるタイムマシンみたいなものです」

   ×    ×

 店の創業は1921年。隆は大学卒業の間近に、父から「話がある」と言われた。「店を継いでほしい」。隆は三男だったが、兄たちは就職していた。隆も就職が内定していた。ベテランの従業員が辞めた時期で、隆は店の羊羹造りの工程が遅れ気味なのを知っていた。1週間、考えて3代目の道を選んだ。

 店のオリジナルに「珈琲羊羹」がある。隆が考案したものだ。

 「大学時代、喫茶店でコーヒーを飲みながらフォークなどをよく聴きました。コーヒーが好きなんです」

 この羊羹には若き日に出合ったフォークの甘味も練り込まれている。

 レコードやオーディオ装置は改築した5年前に、自分部屋からフロアに持ってきた。フォークファンの交流の場にもなっている。

 「いずれ、この一角をフォーク喫茶にしたいと思っています」

 羊羹とフォークが共存する新しい空間が生まれそうだ。 =敬称略

 (田代俊一郎)

=2018/09/03付 西日本新聞夕刊=

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