元受刑者の自立促す 福岡市の「そんとく塾」

西日本新聞

社会とのつながり 気付かせ

 罪を犯した人たちの社会復帰を支援する資源リサイクル会社「ヒューマンハーバー」(福岡市)が、元受刑者の学び直しに取り組んでいる。国語や数学の授業を通じて社会とのつながりを学び、自立更生のため意識の転換を図ろうという試み。偏見を取り除いて自ら考え、判断し表現するといった、近年の学校教育に通底する考え方でもある。取り組みを取材した。

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 「『あやしがりて』『いとうつくしう』。意味は分かる? 何でも言ってみて」。講師役の原田公裕さん(55)が、アヤさん(31)=仮名=に語り掛ける。しきりに首をかしげるアヤさんの口から、言葉はなかなか出てこない。

 ヒューマンハーバーの事務所の一室。同社執行役員の原田さんとアヤさんのマンツーマン授業が始まった。この日のテーマは中学1年で習う国語の竹取物語。小学校の頃から勉強になじめなかったアヤさんにとって、古典文学は新鮮だが、すぐ頭に入ってくるわけではない。

 原田さんは「あやしがりて」「いと」などの現代語訳を丁寧に説明。言葉にはそれぞれ意味があることを示した上で問い掛ける。「言葉や文字は何のためにあるのだろうか」。今度はアヤさんも「伝えるため。残すため。教えるため」と答えた。

 原田さんは「そのために意識しないといけないことは?」とたたみかける。間をおいてアヤさんはつぶやいた。「相手です」

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 ヒューマンハーバーは2012年、副島勲社長が「更生には誰かの支えが欠かせず、再挑戦ができる機会が重要」と設立。翌年「そんとく塾」と名付けた学びやを開設した。

 これまでの受講生は25人。刑務所で出所を控えた受刑者のうち、同社への就職希望者を面接し「犯した罪を全て吐露するかどうか」で更生の可能性を見極めて受け入れを決めている。多くは学校で満足に学べなかった人たちという。

 塾は週1日。午前9時半から午後4時まで、国語や算数、英語など1こま50分の授業を半年かけて行う。

 教科を絞る狙いは明確だ。国語や英語では、人によって覚えた単語や文章の使い方次第でさまざまな表現方法があることを学ぶ。算数・数学では答えを導く過程で複数の解き方があることを知る。いずれも円滑な社会生活に不可欠な要素だ。

 「人間不信で罪を犯した人は注意されると反論するか、取り繕って模範的な返答をしてくるだけで心からは反省しない。そんとく塾は、教育を通じて客観的に周りの助言を受け入れることのできる『スポンジの心』づくりの一歩」と原田さんは言う。

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 高校を中退し、漫然と日々を送っていたアヤさんは「寂しさを紛らすため」に、友人に勧められるまま薬物に手を出し、実刑判決。刑務所生活を送った。

 希望通りヒューマンハーバーに職を得たが、出所当初はとげとげしかった。事務所のトイレを掃除している際、原田さんが「しゃがんでするように」と伝えただけで食ってかかってきた。やる気はあっても空回りする場面が目立った。

 受刑者は、規律に縛られた施設でいわば「受け身」の暮らしを続ける。このため自由な生活に戻っても、周囲とうまく意思疎通ができず、そのもどかしさを他人のせいにするケースは多いという。

 アヤさんはそんとく塾のない日、同社の清掃部門で働く。ある日、従業員の顧客対応のまずさを批判するような物言いで指摘し、トラブルを起こしていた。

 古典の授業の中で原田さんはこの件を取り上げ「相手への言い方が悪かったからトラブったのではないか」と付け加えた。授業後、アヤさんは「言葉一つでも責任を持たないといけない」と素直に反省していた。

 そんとく塾の受講生の中には日本語検定や日本情報処理検定の合格者もいる。学ぶ意欲を形にする中で、達成感を積み重ねていく。

 原田さんは、社会に息苦しさを感じる人ほど、自立のための教育が必要と考えている。「彼ら、彼女らは歩くレールも、歩き方も知らないんですから」

上昇する再犯者率 法務省の犯罪白書によると、刑法犯で摘発された者は2004年の約38万9000人から減少傾向にあり、16年は約22万6000人だった。再犯者も減少してはいるが、刑法犯全体に占める割合は増加。16年は過去最高の48.7%(前年比0.7ポイント増)で、20年連続で上昇した。背景には、生活力の乏しい高齢者や知的障害者が犯罪を繰り返したり、出所者の仕事や住まいの受け入れ先が限られていたりすることが指摘されている。就職しても長続きしないという課題もあるが、「そんとく塾」を修了した18人は、同一企業に半年以上勤務している。

=2018/09/02付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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