誰が殺したのか? 「家族とは何か」を問う、一気読み必至のミステリー

西日本新聞

 サスペンスとミステリー。両者の線引きは難しいとされるが、本作は見事なまでにこの2つの要素が融合している。あえていうなら「サスペンス色の強いミステリー」だろうか。衝撃の真相が待つ秀逸なミステリーである。

 物語は、殺人現場にいる女性の視点から始まる。血まみれの包丁を手にした女性、柏原麻由子は自ら警察に電話をし、人を殺したと告げる。場面は転換し、麻由子は病院で目を覚ます。病室で事情聴収が始まるのだが麻由子は人を殺したらしいことも警察に電話をしたことも一切覚えていない。麻由子は単なる記憶喪失ではなく、記憶障害だった。彼女が記憶を保てるのは10分から20分程度。記憶の蓄積が難しく、今話している相手が突然誰だかわからなくなる。本人の供述があてにならない中、警察は麻由子が犯人であることを前提に、麻由子の夫、光治の協力のもと捜査を進めていく。ところが、物語は思いがけない方向へと展開していく。

 記憶が抜け落ちたときの混乱、忘れることすら忘れる恐怖。これらの想像しがたい感情の描写に、読者は興味を引かれることだろう。同時に、記憶や認知が難しい人と暮らす困難さに気付かされる。結婚していることさえ忘れてしまう麻由子を傍らで支える光治。彼の苦労は想像に及ばない。これが本作の裏テーマ、「家族の介護」だ。本作では、事件真相の究明と生々しい介護問題が並走する。そこにはもう一人の主人公、捜査担当刑事の桐谷優香の存在がある。認知症の母を施設に預けている彼女は、麻由子と光治に、母と自分を重ね合わせて罪悪感にかられてしまうのだ。

 献身的に支える姿は美しい。だが、介護生活は想像以上に凄絶で、その程度は経験したものにしかわからない。同じように介護の問題を抱えている読者にとっては、優香は代弁者とも呼べるかもしれない。彼女の苦悩、そしてラスト間際で見せる姿に共感する読者もいることだろう。

 本作は、読者をハラハラさせるサスペンスであり、謎に対するドキドキ感を楽しむミステリーであり、さらに介護問題を考えさせる社会小説でもある。一度読み始めたらページをめくる手が止まらなくなること間違いなしだ。ぜひ、秋の夜長に読んでいただきたい。


出版社:双葉社
書名:ガラスの殺意
著者名:秋吉理香子
定価(税込):1,620円
税別価格:1,500円
リンク先:http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-24112-9.html

 西日本新聞 読書案内編集部

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