僕は目で音を聴く(20) 1人で火事に遭遇していたら

 20代のころ、難聴の友人とデパートで焼き肉を食べていたときのこと。彼が突然席を立って「なんか臭いよ」と言います。焼き肉に夢中だった私は「焼き肉の煙だろ?」と気にも留めていなかったのですが、友人の不安そうな表情は消えません。

 彼はしばらくして席を立ち、部屋を出て行ったかと思うと戻ってきて「火事だよ!」と叫びました。臭いのは火事の煙だったのです。食べかけの肉もそのままに慌てて立ち上がりました。周りも避難を始めましたが、店のスタッフは特に誘導している感じではありませんでした。

 店の外に出ると、同じ階のいくつかの店からお客さんが飛び出してきます。耳が聞こえない私はただ、人の波についていくしかありません。煙を少し吸ってしまったようで、急に肺が押さえつけられるような強い痛みに襲われました。「これはやばい」と直感し、持っていたタオルを口に加えて、低い姿勢を保ちながら移動しました。

 5階だったので非常階段へ。大勢いてなかなか降りにくかったものの、何とか1階にたどり着きました。やじ馬やパトカー、消防車、救急車で騒然とした雰囲気。無事避難できてほっとした半面、飲食代を支払わずに出たことが妙に気になって、近くにいた警官か警備員のような制服の人に聞くと、面倒くさそうな顔で「いらないよ」と言われたことを覚えています。

 周りは私が聞こえないと知らなくて当然だし、配慮してくれるわけでもありません。もし1人でいて、火事に気づくのが遅れたら…。ビルなどに視覚的にも火災を知らせる回転灯のようなものが設置されていれば助かるのに、とも思います。災害時は誰もがパニックになり、自分のことで精いっぱい。もともと避難に手助けが必要な人だけでなく、逃げるときにけがをして動きにくくなる人も出てくるかもしれません。困ったときはお互いさま。非常時にどうやったらみんなが助け合って避難ができるのか。普段から環境を整えておく必要性を痛感しています。
 (サラリーマン兼漫画家、福岡県久留米市)

 ◆プロフィール 本名瀧本大介、ペンネームが平本龍之介。1980年東京都生まれ。2008年から福岡県久留米市在住。漫画はブログ=https://note.mu/hao2002a/=でも公開中。

※平本龍之介さんによる漫画「ひらもとの人生道」第1巻(デザインエッグ社発行)が好評発売中!

=2018/09/06付 西日本新聞朝刊=

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