木のスピーカー「優しい音」 九工大ベンチャー、大川家具と連携し開発

西日本新聞

大川家具産地で作られた合板を前後に取り付けたスピーカー 拡大

大川家具産地で作られた合板を前後に取り付けたスピーカー

 木の温かみのある音色にうっとり-。音響機器メーカー「キットヒット」(福岡県福津市)が、大川家具産地と連携して新たなスピーカーを開発した。「東木工」(同県大川市)製の長方形の合板を振動させて、音を「平面波」で伝える仕組み。一般のスピーカーに比べて、空間全体に音が均一に届くそうだ。この「ウッドボードスピーカー」を、福岡市・天神のベスト電器福岡本店で、9月末まで無料試聴できる。

 一般のスピーカーの音は「球面波」で伝わる。スピーカーの正面(スイートスポット)は、いい音で聴けるが、それ以外の場所は放射状に音が拡散して音質が下がるという。

 これに対し「ウッドボードスピーカー」は、前後に付けた合板(高さ1メートル、幅20センチ、厚さ1・3センチ)が生みだす「平面波」で、部屋全体に音を均質に伝えることが可能になった。キットヒットの石原政道社長は「どこで聴いても迫力ある高音質を楽しめる」と自信を見せる。

 木目のあるノッポなデザインは、インテリアとしても映える。朱色、アイボリーなど5色から選べる。

 合板をスピーカーの振動板として使うには課題があった。高音域を出すには、低音域より振動数を増やす必要がある。最軽量のカーボン製に比べると、木製は重くて硬く、十分振動させることができなかった。

 県の補助事業を活用して東木工と連携したキットヒットは、持ち前の技術力で課題に挑んだ。13年前に九州工業大(北九州市)発のベンチャー企業として生まれた同社は、音響愛好家に人気のスーパーツイーター(超高域用スピーカー)の開発で知られる。

 半導体を専門とする技術者が、困難とされた高音域の出力を再現できる「高音質化電子回路」の開発に成功。この回路を使うことによって、合板と補助スピーカーで高音域を出せるようになり、3年で製品化にこぎ着けた。

 試聴した人の反応は「長く聴いても疲れない」「優しい音がする」と上々だ。「炭素を染みこませたカーボン製と違い、自然素材の木の効果もあるのではないか」と石原社長。「特に弦楽器は音を忠実に再現していると好評で、ぜひ体感してほしい」。価格は2台1セットで72万円(税別)。レストランなどの店舗に置けば、インテリアとしてもおしゃれな“逸品”になりそうだ。

   □    □   

 体験はベスト電器福岡本店5階オーディオ試聴室で正午~午後6時。CDを持参して聴くことができる。23日午後1時から約2時間、石原社長が説明する。同店=092(752)0001。

 ■経験と技術、故郷に還元

 日立製作所の部長などを経て「キットヒット」を設立した石原政道社長(70)は、故郷・福岡県宗像市の隣の福津市に事務所を構える。「木製スピーカー」開発の経緯や、古里への思いを聞いた。

 -開発のきっかけは。

 半導体開発を長年手掛けてきた経験から、機能性はもちろん、デザインにも優れた、今までにないスピーカーを作れないかと仲間と開発を始めた。

 大川の家具職人と協力する機会を得たことで「木製スピーカー」が誕生した。

 弦楽器の曲の再生に優れているという感想が多く、音楽ファンに受け入れられる音質を生み出すことができたと自負している。

 -会社の理念は。

 エレクトロニクスの技術で、人の暮らしに「癒やし」と「健康」を届けたいと会社を設立した。

 北九州空港に設置されていたアニメ「銀河鉄道999」のキャラクター「メーテル」の案内ロボット、脈拍や体温を測定できる腕輪型の生体センサーを10年以上前から手掛けてきた。

 音響機器の開発も「音楽で心に潤いを与えたい」という思いから。今は主力製品のスーパーツイーターの輸出に力を入れている。既に受注したシンガポールや欧州のほか、さらに米国などにも販路を広げたい。

 -故郷への思いを。

 日立製作所では40代前半で部長に就いたが、故郷への愛着が膨らんで50歳で退社し、福岡に戻った。2003年に九州工業大の教授になったことが大きな転機だった。2年後に「キットヒット」を同僚の佐藤寧(やすし)教授(電子工学)たちとつくり、10年に社長になった。

 今回の大川家具産地との連携のように、培った知識と技術を故郷に“還元”できていることを誇りに、これからも頑張りたい。

=2018/09/15付 西日本新聞朝刊=