平渓線をガタゴト行けば 台湾

 ガタンゴトン。心地よいリズムで揺れる列車は、あるときは緑あふれる渓谷沿いを進み、またあるときは軒を連ねる商店の合間を縫うように走る。台湾北部の旧産炭地を結ぶ「平渓(ピンシー)線」。日本統治時代に石炭を運んだ線路は今、観光列車に生まれ変わり、多くの観光客を乗せて進む。のんびりゆったり、ローカル線の旅を堪能した。

 台北駅から列車で40分。起点となる瑞芳駅に向かう。ここはジブリ映画「千と千尋の神隠し」の舞台のモデルとなった九〓(〓は「にんべん」に「分」)の最寄り駅で、日本からの観光客も多い。台湾南部、高雄から来たという大学生は「平渓線は人気の写真スポットだよ」と、列車を待ち構えていた。

 しばらくすると、黄色い3両編成がするりと入ってきた。乗り込むと、車内は笑い声や話し声でにぎやかになる。発車ベルが鳴り、いざ出発。基隆河沿いに山を登っていく。まずは車窓を楽しみながら終着の菁桐駅まで。その後、途中下車しながら折り返すことにした。

 平渓線は1921年、台湾屈指の炭田とされた菁桐坑開発のために敷設された専用鉄道だった。白い板張りが懐かしい雰囲気の菁桐駅は日本の木造建築技術が使われ、古跡として保存されている。少し歩くと、石炭を掘る人の像も。「閉山までは、炭鉱業が生活の要だったんですよ」と商店の女性が教えてくれた。

 次に降りたのは路線の名前にもなっている平渓駅。小さな渓谷の上にある。列車が出ると、そばで待っていた人たちが続々と線路の中に入って記念撮影。一度行ってしまえば、逆方向の次の列車が来るまで、線路は“歩行者天国”になる。映画「スタンド・バイ・ミー」よろしく、少々散歩も楽しめる。

 待ち時間は、お土産を買うもよし、レトロな街並みを楽しむもよし。ホームにはたくさんの竹筒が並び、健康や将来のこと、さまざまな願い事が書かれていた。

 もう一つ、平渓線では願い事を書いて空に飛ばす紙風船「天燈」が有名だ。男の一人旅で飛ばすのは気恥ずかしいので、ここは撮影に専念しつつ、ふわりふわりと上っていく天燈を見上げた。この頃、台風が日本に近づいていたこともあって、兵庫県から来た夫婦は「無事に帰れますように」と書いていた。何とも現実的で、ちょっと笑えた。

 旧正月、夜空に天燈が一斉に舞い上がる「平渓天燈祭」で知られるのは十分駅。線路のすぐ横に商店が立ち並び、目の前をすれすれに列車が走っていく、少々スリリングな場所でもある。

 夕暮れが近づき、最後の途中下車は猴〓(〓は左が「石」右が「同」)駅。通称「猫村」と呼ばれるほど猫がたくさんいる集落だ。自由気ままに振る舞う猫たちをいかにうまくカメラに収めるか。気まぐれな猫たちを追い掛けるカメラマンの表情は、真剣そのものだった。

 味わいのある商店街、線路から飛ばす色とりどりの天燈、猫の楽園…。それぞれの駅に、写真映えする“素材”があふれる。気づけば撮影枚数は千枚を超えていた。

 ●メモ

 平渓線の入り口となる瑞芳駅は、台北駅から列車で40分~1時間ほど。瑞芳駅から終着の菁桐駅までは所要45分。単線なので、途中下車すると次の列車が来るまで約1時間の待ち時間がある。瑞芳駅、台北駅などで一日乗車券(80元)が販売されている。

    ×      ×

 ●寄り道=歴史学ぶトロッコ

 猴〓(〓は左が「石」右が「同」)駅から運炭橋を渡った先には、炭鉱列車だった平渓線の歴史が学べる施設がある。実際に使われていた線路を活用、トロッコ=写真=に乗って進めば、当時の炭鉱マンの仕事や生活、採炭作業用の大型機器の解説が出てくる。

 説明板には、運動会の様子、休日の過ごし方なども紹介されている。石炭の掘削や運搬に使った道具が並ぶ場所ではトロッコを降りて実際に触ったり乗ったりすることもできる。

 近くには喫茶店や資料館もある。もちろん至る所に猫の姿も。トロッコの運行は平日10往復、休日20往復ほど。乗車券は150元。

=2018/09/12付 西日本新聞夕刊=

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