化学物質を考える 番外編 換気、入浴、運動-対策は地道に 定義あいまい、難しい患者数の把握

西日本新聞

 日常生活や産業の現場に欠かせない化学物質について、健康への影響や使用の現状を報告した連載「化学物質を考える」(8月29日付から3回)に、読者からさまざまな疑問や感想が寄せられた。

 連載では、住宅の建材などに使われる物質で体調不良が生じるシックハウス症候群(SHS)や、住宅を含めたさまざまな製品の物質で発症する化学物質過敏症(CS)を取り上げた。

 まず疑問が寄せられたのは、CSの患者数だ。連載では「70万人に上ると推定されてきた」と書いた。これは国立公衆衛生院(現・国立保健医療科学院)の研究者が2000年、約2850人に面接調査などを実施し、化学物質に敏感な割合は0・74%だったことを受け、国内の総人口に換算して引用されてきた数だ。

 これに対し「患者は現在700万人ではないか」との意見が複数届いた。12年に近畿大の東賢一准教授(衛生学)らが実施したインターネット調査(対象者約7240人)によると、化学物質に感受性の高い層は00年調査と同基準で見た場合に4・4%、最新の研究に基づくと7・5%だった。この7・5%を関係者が総人口に換算し、約700万人と推計したとみられる。

 二つの調査結果は化学物質を敏感に感じる人であって、患者数ではない。東准教授は「12年の調査では、回答者のうちCSと診断された人は1%、CSの診療を受けている人は0・15%。二つの調査は手法も異なり、化学物質を敏感に感じる人が急増したのかどうかも慎重に見るべきだ。ただ、4・4%と7・5%の層が存在するのは重要な問題」とする。

 厚生労働省も「CSは定義があいまいで診断基準も定まっておらず、患者数の把握はできない」とする。被害者の全体像がつかみづらいことにこそ、CSの難しさがある。

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 連載で出会ったCS患者の声は悲痛だった。一方、行政機関には「なぜ今、その取材なのか」と問われた。そのギャップは大きい。問題を過去のものにしてはいけない、と痛感した。

 あるCS患者支援団体の担当者は、大量の放射性物質が放出された11年の東京電力福島第1原発事故後、「室内の微量な化学物質の問題は小さなものと捉えられた」と明かした。活動への賛同も得にくくなったという。CS患者の一人は、病院や支援団体を通じてようやく専門外来にたどり着いたと言い、「もっとこの問題を取り上げて」と声を寄せた。潜在被害があるのに関心が薄れていくことに、戸惑いを感じていた。

 その隠れた被害の一端を昨年、日本消費者連盟(東京)が公表している。衣類の洗剤や柔軟剤などに含まれる化学物質の香料で体調を崩す「香害」。昨年7、8月の電話相談では、2日間で213件の声が届いた。生活習慣の変化で、CSの新たな原因が生まれていることが浮かび上がった。連盟の杉浦陽子さん(49)は「相談では受け付け終了後も電話やメールが次々に届き、被害は氷山の一角だと感じる。深刻な問題」と指摘する。

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 対応策について、連載では「原因化学物質から離れ、換気などで室内濃度を下げる環境面の改善が原則」と書いたが「具体的な方法は?」という疑問も寄せられた。CS患者を診る複数の医師は、物質を「取り込まないこと」と「体外に出すこと」が重要と言う。

 まず室内の化学物質を増やさないこと。芳香剤や殺虫剤、防虫剤の使用は控える。十分換気し、マンションはベランダ側と玄関側の窓を一緒に開けて空気が通り抜けるようにする。24時間換気の設備があれば電源を切らずに使う。活性炭マスクの着用や空気清浄器も有効という。

 新築やリフォームの際は、建材に化学物質が使われていないか業者に確認し、室内の壁材や畳も防虫加工のものを避ける。家具も化学物質が含まれる場合があり、新しいうちは空気にさらすといい。

 CSやSHSは原因物質を摂取しなければ症状が軽減することを知っておきたい。こうした環境面の改善で症状が治まらなければ、解毒作用のある薬物療法もある。

 「体外に出す」では、ぬるめの湯で長めに入浴▽適度な運動▽低農薬や無農薬栽培の野菜を中心にした食事▽香辛料や甘味料、添加物の多い食品を避ける-などが大切という。

 ただし、体調不良は別の重い疾患が原因のこともある。化学物質が要因と決めつけず、専門医に早めに相談する必要もありそうだ。

=2018/09/19付 西日本新聞朝刊=

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