余命2カ月、73歳から主婦たちへ命のバトン 地域つなぐ野菜作り指南

西日本新聞

農作業後、古民家風カフェ「いちしろ」で談笑する(左から)小林大柱さん、久芳文香さん、中山百代さん=5日、福岡県久山町 拡大

農作業後、古民家風カフェ「いちしろ」で談笑する(左から)小林大柱さん、久芳文香さん、中山百代さん=5日、福岡県久山町

 福岡県久山町で古民家風カフェを運営する地元の主婦たちに、残された人生を懸け野菜作りを教える人がいる。仲間から「大(だい)さん」と呼ばれている福岡市東区青葉の小林大柱(だいちゅう)さん(73)だ。住民の交流拠点ともなっているカフェ。隣の畑で育てる四季折々の野菜を届けつつ、子育てイベントなどを手伝ってきたが、がんを患い余命いくばくもない。「大さんの野菜を私たちが引き継ぐ」。懸命に畑を耕す主婦たちに、大さんは温かいまなざしを送る。

 畑と一戸建てが混在する閑静な久山町猪野地区の一角に、古民家風カフェ「いちしろ」と大さんの畑はある。今月初め、カフェのスタッフの一人で主婦の久芳(くば)文香さん(39)が、畝と畝の間にくわで道を作っていた。今春まで町役場で働き、畑仕事は素人。そばで見ていた大さんは「くわの先を自分の体に向けんと」と言って自ら耕してみせた。久芳さんは町内の主婦4人でつくる「大さん菜園支援隊」のメンバーも兼ねる。

 大さんは熊本県久木野村(現南阿蘇村)の出身。福岡市で60歳まで約30年間、生花店を営んだ。店を畳んだ後、農業を志し2012年、久山町の畑にたどり着いた。農作業仲間だった中山百代(ももよ)さん(43)が14年、名前の「百」の字を「一(いち)」と「白(しろ)」に分け命名した「いちしろ」を開店。大さんの作るトウガンやズッキーニなど50種以上の野菜は、中山さんの自然食ランチに使われ、店内の約20席がいつも満席になるほどだ。

 音楽愛好家を招いた演奏会や餅つき、お月見会…。「子育てと両立できる店」を目指す中山さんは、カフェでさまざまな家族向けイベントも企画してきた。大さんは農作業の合間をぬって手伝い、今夏のそうめん流しでは竹を切り装置を製作。畑のキュウリなどもそうめんと一緒に流し、子どもたちを喜ばせた。

 しかし、そのころ医師に余命2カ月と宣告された。体の衰えは日に日に強まる。それでも、好きな畑仕事をやれば病気も忘れるからと、今も1日2時間の作業を欠かさない。「久山で畑をやって、ももさん(中山さん)をはじめ、友達がたくさんできた。町おこしとか自分の知らなかった世界を広げてくれた」

 カフェの出入り口には、大量のカツオ菜が育った畑に1人、腕組みして立つ大さんのポスターがある。「支援隊」の野菜作りのレベルがここまで達するには、大さんが教えることは山ほどある。

=2018/09/20付 西日本新聞朝刊=

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