【日日是好日】運転中の有り難い出来事 羅漢寺住職 太田英華

西日本新聞

 運転免許証の更新で中津警察署に出向きました。耶馬渓から国道212号を市中心部に向かい、JR中津駅の少し手前を右に曲がると、すぐ右手に中津警察署が見えます。右車線に入り、中津署に入るため右折して道を横切ろうとした瞬間、後続車が私を追い越しざま「ばか野郎!」と怒鳴っていきました。「えっ? いったい何がばか野郎?」

 運転免許を取得し、ペーパードライバー歴25年。修行道場より帰山してこの5年間、必要に迫られて一生懸命運転しておりますが、いかんせん運転には自信がありません。そして今回怒鳴られてしまったのですが、何がいけなかったのか…。免許証の更新に来たのですから、警察署の方に聞いてみることにしました。

 窓口の女性に尋ねると、警察官の方が出てこられ、怒鳴られてしまった場所まで一緒に足を運んでくださいました。私が怒鳴られたのは、通称ゼブラゾーンというところで、右折する場合は入っても良いとのことでした。私の運転は間違ってはいなかったので一応ホッとしました。

 対応してくださった警察官の方は「最近、中津署に配属になったのですが、私もこの前、出勤途中で後ろの車両の人に怒鳴られました。中津の人って激しいですね」とおっしゃいます。

 私が「いきなり、追い越し際にばか野郎と怒鳴られたんです」と言うと、警察官の方は「えっ! そいつが、ばか野郎ですよ! その人、何も分かっていないんですよ」と私のために怒ってくれました。いきなり怒鳴られ、びっくりし、何となく悲しかったのが、その方の言葉で温かい気持ちになりました。「すみません。ありがとうございました」とお礼を申し上げました。

 仏教では「難値難遇(なんちなんぐう)」という言葉があります。目先の現実的な利益を与えられるのが功徳ではなく、仏法に触れることができたこと自体が既に希有( けう )な功徳である。人生の中で、何かを考えさせてくれるご縁を頂くことが、何よりの妙功徳なのです。「難値難遇」は値(あ)い難し、遭い難しとも読み、なかなかあり得ない、有り難いという意味から「ありがとう」の言葉が生まれました。

 夏の暑さでいら立っている方々が多かったり、中津に気性の激しい人が多かったりするのかもしれませんが、いずれにしてもそのいら立っている人に、出掛ける頻度の少ない私が出くわすこともまれであります。「ばか野郎」と怒鳴られたことにより、めったにない体験を頂き、そして、爽やかな中津署員の方に心ある対応と言葉を頂けたことに「ありがとう」でした。

 羅漢寺の山内に、どこからともなくモクセイの爽やかな香りが風と共にやって来ました。暑かった夏が終わり、秋の穏やかな空気が流れます。「この山の中は平和だな」と改めて思い、安全運転を心掛けようと、あの「有り難い思い出」を振り返りました。合掌。

 【略歴】1967年、羅漢寺27世住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在、羅漢寺28世住職として寺を守る。

=2018/09/23付 西日本新聞朝刊=

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