消防団運営“火の車” 団員報酬「受け取ったことない」証言も

西日本新聞

消防技術を競う操法大会の訓練に励む消防団員=福岡市東区

 会社員や自営業など本業の傍ら、災害発生時に消火や救助活動を担う消防団。団員は非常勤特別職の地方公務員という立場で、自治体から報酬や出動手当が支払われる。ところが、福岡県内の複数の消防団員から「報酬を受け取ったことがない」という声が特命取材班に届いた。「団の飲み会や旅行に使われている」という証言もある。調べてみると-。

 「報酬は分団が全てプールしていて、何回出動しても、自分は一度も受け取っていない。誰が管理しているのかも知らされていません」。福岡都市圏の消防団分団に所属する団員は、無料通信アプリLINE(ライン)でそう訴えた。

 詳しく話を聞くと、飲み会や、2年に1回ほど海外に出かける「研修旅行」の代金は分団のプール金から。消火活動や器具の定期点検には参加しないのに、飲み会や旅行にだけ顔を出す団員もいるという。「報酬は元をたどれば税金なのに、地元の仲間と好き放題やっている」

 辞めたくても「代わりの人が入らないとダメ」と言われるという。「新しい人が入っても、退団は先延ばしにされている。辞められたら1人分の報酬が減ってしまうからでしょうね」

 別の地域の消防団員もメールを寄せ、「報酬が支払われないのは珍しくない。代々引き継がれたやり方で『金のことは言うな』という雰囲気さえあります」と打ち明けた。

 団員への報酬はそれぞれの市町村条例で規定。福岡市の場合、団員個人の口座に直接振り込む。一般的な団員の場合、年額3万6500円。出動ごとに原則7千円の手当が出る。入団する際に口座振替依頼書を記入し、各地域の分団を通じて市に提出する仕組みだ。

 福岡市消防局消防団課の木原秀樹課長は「団員個人の連絡先や勤務先と一緒に、口座番号もシステムに入力している。個人に支給されないということはありえない」と話す。

 実態はどうか。特命取材班は、福岡市の63の消防団分団にアンケートを行った。回答があった34分団のうち28分団では、団員個人に振り込まれた報酬・手当の全額もしくは一部を、分団がわざわざ徴収していた。

 理由は「分団の運営費用を賄えないから」という。どういうことか-。

消防団運営“火の車” 個人報酬徴収し「経費」に

 消防団員個人の口座に振り込まれる報酬の扱いを巡り、特命取材班が福岡市の63の消防団分団に行ったアンケートによると、「一部徴収して運営費に充てる」が最も多く、回答した34分団のうち19分団。全額徴収しているのは9分団あり、うち6分団は「余った分は返金する」、3分団は「返金はしない」と回答した。

 つまり、個人に支払われた報酬を何らかの形でプールしているのは、34分団の8割ほどに当たる28分団に上る。

祭り、自主訓練…手当なく

 記者が取材した東消防団西戸崎分団(団員約60人)では、団員の了承を得た上で個人の報酬・手当の全額をいったん集金し、訓練時のスポーツドリンクや、夜間の訓練時に使用する照明器具などの備品を購入する代金に充てている。その上で、本来より減額されることになるが、団員個人への報酬を出動回数と時間に応じて計算し、改めて渡しているという。

 大井手清美分団長(60)は言う。「手当の対象外である地域活動や自主的な訓練が多くなると、運営費が足りなくなるんです」

 分団の収入は、市から支給される年間一律約41万円の交付金が軸。消火器具や作業服の修繕費も出るほか、校区自治会からの助成金が得られる場合もある。

 それでも、全ての経費は賄えない。消防技術を競う操法大会に参加する際は訓練が増え、競技用手袋や靴の購入費用も膨らみ、飲み物代もかかる。地域の夏祭りや運動会の警備を依頼されることも多いが、市から必要経費や手当は出ない。

 大井手分団長は、過去の出納帳も見せてくれた。出動回数や各出費の状況を細かく記録しているようだ。「行政の決めたルール通りでは回らない。分団の実情に合うやり方で個人に還元するよう努力しています」

 本紙アンケートでも「手当の出ない夏祭りや運動会の警備に伴う運営費が必要」「分団員数が多くなると費用がかさむ」「地域の防災教室などにも参加すると、とても交付金のみでは運営できない」など、やりくりに苦労しているという記述が目立った。

「不透明と言われても仕方ない」

 消防庁は団員個人に報酬を支払うよう、各市町村の消防団に再三通知を出している。2013年の消防団等充実強化法の成立を機に、全市町村を対象に、条例で定める消防団員の年額報酬を調べたが、一部の自治体には条例すら存在しなかった。15年度中に全ての自治体で条例化されたという。

 とはいえ、報酬が団員個人に本当に支給されているかどうかは確認できていない。足りない運営費の穴埋めに、各団で報酬を徴収してプールしている実態は見過ごされている。「不透明と言われても仕方ない。流用など不正の温床になる懸念もある」と、福岡都市圏のある分団長は話す。

 同庁地域防災室の担当者は「消防団は自治的な組織なので、団員が了解した上で適切に管理してもらうしかない」と歯切れが悪い。

「封建的な慣習」に警鐘も

 「福岡市だけではなく、全国的な問題だ」と指摘するのは、関西大学社会安全学部の永田尚三准教授(消防行政)。「市町村が消防団を都合のいい労働力とみなしている側面もある。経費が支払われないまま、祭りの見回りなど本来業務を超えた仕事も慣習的に行われている」とし、団員報酬を運営費に充てることを単純に批判できないという。

 近年、豪雨や地震など災害が相次ぎ、地域の消防団の存在感は増しているが、高齢化などによる人手不足は深刻。特に若者離れが目立つ。永田准教授は「報酬の問題を含め、昔ながらの封建的な慣習が引き継がれていることが多く、若い人はそれを嫌う傾向が強い。時代に適応した仕組みに変えていかないと組織の維持ができなくなる」と警鐘を鳴らした。

=2018/09/25付 西日本新聞朝刊=

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