受け入れ8年 福岡・朝倉の老健施設の試み 外国人介護 共存するために

西日本新聞

 外国人の受け入れなしには人手不足を解消できないとされる介護業界。政府もアジアからの担い手の確保拡大を目指すなか、福岡県朝倉市の介護老人保健施設「ラ・パス」では、経済連携協定(EPA)を通じ、フィリピンから介護人材を受け入れて8年になる。実際に介護現場で日本人の職員と「共存」させ、質の高いサービスを担保していくヒントとは-。

 「トイレ行けますか? 大丈夫?」。シルバーカーを押す93歳の利用者女性に寄り添い、声を掛けていたのはオラシオン・ダイゼル・マリーラスティモサさん(27)。介護福祉士候補者として、実務に就いてまだ10カ月。「日本語は、方言もあって難しいし…。仕事にも、まだ緊張してます」と苦笑いを浮かべた。

 ●足りぬ人材 欠かせぬ担い手

 外国人が日本の介護現場で働く道が初めて認められたのが2008年度から始まったEPAに基づき入国するケース。介護施設での3年間の実務経験を経て、介護福祉士の国家資格試験に合格することが条件だ。

 同施設を運営する社会福祉法人「寿泉会」は10年度以降、ほぼ毎年その候補者を2人ずつ受け入れ、現在まで計14人。「もともとは、明るくてスキンシップを含め愛情深いケアができるフィリピンの方々の気質を介護現場に生かしたいという狙いだった」と同法人広報企画リーダーの上野徹雄さん(45)。ただ団塊世代が75歳以上になる25年には介護人材が約34万人不足するとされ「もはや現場で満足されるケアを続けるには、外国人は欠かせない存在」と認める。

 ●仲間として 手厚い生活支援

 同法人の候補者へのサポートは手厚い。実務研修中も日本人と同一賃金を支払う。一方で国家試験合格への高いハードルとなる日本語学習には外部から専門講師を招き、1年目は就労時間内に週3回、日に3・5時間を充てる。3年目には介護専門の外部講師も呼ぶなど受験対策を行い、これまで合格率は100%(8人中8人)だ。

 住まいとして近くの社宅を確保。生活家電などは、200人を超える日本人の職員から寄付も募る。暮らしの足として自転車を提供し、日本人職員が一緒に交番で防犯登録する。資源物回収などの行事にも参加。いずれも「地域の一員として名前と顔を知ってもらい、地元の人たちの理解を得るため」(上野さん)だ。

 逆に毎年、法人職員6、7人をフィリピンに4泊5日で派遣。現地で通訳なしに買い物などを体験し「外国人として見られる気持ちや暮らしの心細さ」を味わうことで、来日する候補者の気持ちを理解し、受け入れに生かそうとしている。

 介護福祉士に合格した外国人への“拘束力”はない。同法人でも8人中3人は結婚などを機に退職した。手塩にかけて育てても、労働条件の良い別の施設に移ったり、帰国したりするのは本人の自由だからこそ「ただ人材不足を補充する考えではなく、共に働く仲間として受け入れる姿勢でなければ成功しない」-。法人全体のモットーだ。

 ●違い認める 寛容さが第一歩

 介護現場にフィリピンの人がいる風景が日常となり、利用者のお年寄りも「とにかく明るい彼女(彼)の方がいい」と指名することもしばしば。一方、当初は日本人の先輩しか話し相手がいなかったが、候補者が増えたため、最近はフィリピンの人同士で固まってしまう傾向も。結果、日本語の学習スピードが遅れたり、日本人職員との意思疎通に溝ができたりしかねない懸念も出てきたという。

 「休みの取り方を含めた働き方など、日本人と外国人では考え方の相違がある」と上野さん。「同じチームとして働く介護現場で外国人を増やすには、何より現場の職員の理解が一番。経営側のトップダウンではうまくいかないでしょう」

 EPA以外にも、日本で習得した技術や知識を自国で生かす「技能実習制度」の対象業種に介護が追加されるなど、外国人受け入れの「枠」は広がりつつある。その成否は、やはり文化の違いや互いの多様性を認め合う寛容さが第一歩となるのだろう。

 *

 一般社団法人・日本介護福祉経営人材教育協会(東京)は29、30日、福岡市博多区の福岡県中小企業振興センターで「第3回全国介護福祉総合フェスティバル」を開く。「国際化が進む日本の介護」をテーマにパネルディスカッションなどを実施。「寿泉会」統括本部の稲葉圭治本部長も講演する。申し込み、問い合わせは同協会=03(3256)0571。

=2018/09/27付 西日本新聞朝刊=

PR

連載 アクセスランキング

PR

注目のテーマ