細胞は急に起きられない 明石真氏

西日本新聞

◆体内時計と夏時間

 サマータイムとは、夏季において就業時刻などの社会的スケジュールを早める制度のことである。東京五輪・パラリンピックの暑さ対策を名目に政府が導入を検討している。ほかにもエネルギーの節約や時間の有効活用などさまざまな利点があるため、現時点では欧米においてこの制度が導入されている。「夏は日の出時刻が早まるのだから、自然に合っていて体にも良いのでは」と考える人もいるだろう。以下において、時間生物学の観点からこの制度について考察してみた。

 自然環境は地球の自転によって周期変動している。ヒトを含む生物はこれに適応するために、約24時間周期の体内時計を進化の過程で獲得した。例えば体内時計のおかげで、無意識下で起床前から細胞が活性化を始めることで、起床後すみやかに活動ができる。体と環境のリズムがずれないよう、目から入る光によって体内時計は調節される。しかし体内時計は安定しており、いつも通りの日常環境下で体内時計を朝型にするには結構な時間がかかる。この点がサマータイムを考える上で重要だ。

 したがって、突然出勤時刻を1時間早く定めても、体の時計がついてこられない。急な早起きによって、寝ている細胞をたたき起こして働かせることになる。午前中の仕事効率は当然下がる。一方、夜は体が寝る状態にないのに床につかねばならず、睡眠の量と質の低下が起こる。体内時計はほとんど全ての細胞に備わっているため、体内時計の調節完了まで多臓器に負担を与え続けることになる。睡眠障害だけではなく、精神疾患や循環器疾患の大きなリスクになり、がんと深く関連することも指摘されている。

 日本は世界で1、2位を争う睡眠不足大国である。ぎりぎりの睡眠時間で生活している日本人に、サマータイムを導入するとどうなってしまうのか。導入するのならば、生活時間の厳格な指導の下、夜間のスマホの利用を制限して光環境を調整するなど、長期間にわたり少しずつ体内時計を朝型にずらすことが必要なのである。

 最近の報道によると、日本とは逆行的に、欧州ではサマータイムの廃止が決定的であり、米国でも廃止の検討が始まったようだ。

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 明石 真(あかし・まこと)山口大時間学研究所 時間生物学教授 1973年生まれ、北海道出身。京都大大学院博士課程修了。佐賀大助教などを経て、2009年より現職。著書は「体内時計のふしぎ」(光文社新書)ほか。

=2018/10/07付 西日本新聞朝刊=

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