「女を修理する」医師 編集委員 井手 季彦

西日本新聞

 今年のノーベル平和賞に選ばれたコンゴ(旧ザイール)の産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(63)は2012年、武装した男たちに自宅を襲撃され、家族とともに欧州に避難を余儀なくされた。その時、帰国を願って立ち上がったのが、彼の治療を受けた性暴力被害者の女性たちだった。

 氏が安全に帰国して活動できるよう求める手紙を大統領や国連事務総長に出すとともに、野菜や果物を売ったお金を出し合って航空券代を集めたのだ。ドキュメンタリー映画「女を修理する男-デニ・ムクウェゲ医師の命がけの治療を追う」の中で、女性の一人は「彼は私にとって父親のような存在」と話している。

 氏が初めて被害女性を目の当たりにしたのは、ツチとフツの民族対立などから起きた第2次コンゴ紛争中の1999年。同国東部ブカブの病院でだった。運び込まれた女性は乱暴された上に性器やももを銃で撃たれていた。その後も、やけどを負わされたり、薬品をかけられたりした女性が次々とやって来た。

 実はこの病院も前年、別の場所にあった時に襲撃されて患者35人が殺され、ここに移ってきた経緯があった。

 「ここで起きているレイプは暴力というだけでなく、一種の作戦。女性を犠牲にすることで村人に恐怖を与え、家や畑、そこで取れる資源などすべてを捨てて逃げ出すように仕向けているのだ」。氏は英BBCにそう語っている。

 治療は医療行為にとどまらない。カウンセリングで被害者が手術に耐えられる心理状態か判断する。手術などが終われば衣食の支援。「彼女たちは何も持たず、着る物さえないこともある」。退院後も生活のため技術を習得させたり、少女なら学校に通わせたりする。襲った者の素性が分かれば弁護士を付け、積極的に訴訟を起こさせるそうだ。

 2011年までに約3万人を治療し、性暴力の数も落ち着いてきていた。

 ところがここ数年、状況はまたも悪化しつつある。

 「武装グループが多く誕生し、再び犠牲となる女性が増えている」。ノーベル賞決定後、氏はメディアに訴えた。パソコンや携帯電話などの部品に必要な希少金属の採掘を巡る紛争が原因だという。私たちが何げなく使っている機器の来歴をたどると、そこには女性たちの壮絶な被害が付随しているのかもしれない。

 この映画は21日午後1時からと26日午後3時半から、西日本新聞TNC文化サークル(福岡市・天神の西日本新聞会館16階)で上映される。有料。予約は同サークル=092(721)3200。

=2018/10/13付 西日本新聞朝刊=

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