冤罪防止 制度改革がさらに必要だ

西日本新聞

 熊本県の松橋(まつばせ)事件(1985年)の再審開始が確定した。

 最高裁が再審請求審で検察側の特別抗告を棄却し、殺人などの罪で服役した宮田浩喜さんが求めた裁判のやり直しを認めたためだ。熊本地裁の再審では、冤罪(えんざい)事件だったのかどうか、司法の判断が下される。

 ぬれぎぬを着せられる冤罪が社会正義に著しく反することは、改めて言うまでもない。

 無実の人の人権を踏みにじるばかりではない。真犯人は捕らえられず、再犯に走る可能性もある。もしそうなれば新たな犠牲者を生む最悪の事態となる。

 にもかかわらず近年、根拠に乏しい見込み捜査などが原因で冤罪が続発している。どうすれば防ぐことができるのか‐。

 無実の罪で服役したり、違法な取り調べを受けたりした人たちが、「冤罪被害者の会」を来年前半にも結成するという。冤罪防止のための法整備を政府や国会に求めていくのが目的だ。

 具体的には、全事件での取り調べの可視化(録音・録画)や証拠の全面開示をはじめ、冤罪を生んだ捜査員らの責任の明確化‐を訴えていく。

 とりわけ注目すべきは、再審開始決定や無罪判決が出た場合に、検察側が不服として上訴できる権利を制限する案だ。

 最近では松橋事件と大崎事件(鹿児島)で、福岡高裁が再審を認めたものの、検察が最高裁に特別抗告した。それぞれ服役を終えた宮田さんは85歳、原口アヤ子さんは91歳だ。最終的な決着まで2人にとっては時間との闘いでもある。

 議論の大前提としなければならないのは、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則だ。刑事訴訟法は、再審の目的について有罪確定者の「利益のために」と明記している。

 再審請求審は、裁判のやり直しをするかどうかを決める場にすぎない。裁判所が再審開始を決定したら、直ちに再審の法廷に舞台を移すルールを検討すべきではないか。有罪か無罪かはその場で決めるべきことだ。その意味で松橋事件での最高裁の再審決定は妥当な判断である。

 再審では、捜査機関が集めた全証拠の開示が重要になる。検察の筋書きに沿った証拠だけが法廷に提出され、確定判決の根拠となったのではないかとの疑念があるからだ。証拠は公共の財産である。

 一昨年成立した刑事司法改革関連法は、相次ぐ冤罪事件の反省から取り調べの一部可視化などを義務付けた。

 冤罪防止は司法界全体の切実で重要な課題であるはずだ。さらなる制度改革が必要だ。松橋事件の再審開始を機に論議を深めていきたい。

=2018/10/13付 西日本新聞朝刊=

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