【こちらあなたの特命取材班】(1)迷惑メール取材の舞台裏 記者が3カ月かけ謎に迫った

西日本新聞

 私は約束通りに「白いロングコートに赤い靴」姿で、指定された東京都内の駅前に立った。今年1月中旬のことだ。

 帰宅ラッシュの中、男性が近づいてきた。「吉田さんですか?」。それが「迷惑メール」に関わっていたというシステムエンジニア、佐藤さん(30代、仮名)との出会いだった。

 携帯電話やスマートフォンに届き、詐欺被害にもつながる迷惑メール。読者から苦情の声も届いていた。誰が、どうやって送っているのか。謎に迫りたくて昨年11月、創設された「あなたの特命取材班」の一人として関係者を捜し始めた。

 知人に片っ端から当たり、現役の迷惑メール送信業者と事情に詳しい元ハッカーを突き止めたが、取材は断られた。業者の男性は言った。「業者ごとに手口に特徴があり、しゃべると自分の身が危うくなる」

 心がくじけかけた今年1月、知人の知人のそのまた知人である元関係者にたどり着いた。それが、前述の佐藤さんだった。

 顔や名前も知らされないまま、指定場所に立った時は緊張で胸が高鳴った。どれほどの極悪人かと身構えていたが、居酒屋の片隅で顔を突き合わせた佐藤さんは、柔和な笑顔を浮かべる「いい人」そのもの。とても迷惑メールに関わっていた人物には見えなかった。

 3時間半以上に及んだ取材は、驚きの連続だった。かつてIT系のベンチャー企業に勤めていた佐藤さんは、「広告代理店」を名乗る送信業者から依頼され、「大量にメールを送信するシステムを開発し、実際の送信業務まで担っていた」。中国など9カ国に設立したダミー法人にメールの送受信を管理するサーバー計千台以上を配置し、日本から操作していたという。

 「送信数は1日当たり2億通を超えた」「返信があれば、バイトに雇ったホストやキャバクラ嬢が夜の街で培った甘い言葉を駆使し『出会えない系サイト』に誘導した」。人の心の弱さにつけ込む手口だった。

      ■

 スマホに届く迷惑メールにマジレス(真剣に返事)してみて、巧妙なからくりも明らかになった。

 「優子22歳」を名乗る相手とやりとりした上で、送られてきた顔写真をモザイク加工して紙面に掲載すると、予想外の電話がかかってきた。「写真の女性は、うちの娘ではないか」

 本人である女性会社員(21)に話を聞くと「ブログに載せた自撮り写真」という。実際の写真を見せてもらうと、迷惑メールの写真は鏡に映したように左右が反転加工されていた。

 なぜか。インターネットの画像検索をしても盗用がばれないためだ。

 グーグルなどの検索サイトで画像をコピーして貼り付けると、その画像が掲載されているページが表示される。迷惑メールの受信者が不審に思って調べようとしても、左右反転していればコンピューターは別の画像と認識し、検索をすり抜けてしまうのだ。

 実際、ある「出会い系サイト」では駆け出しの女優の宣材写真が盗用されていた。事情に詳しいIT関係者は言う。「盗んだ写真に捏造(ねつぞう)したプロフィルを付けた『サクラリスト』を堂々と売る業者もいますよ」

 ネットは今や、生活に欠かせない。その陰で、被害者が被害者になっていることにも気付けない「闇の世界」がある。私もまた、知らないうちに被害者になっているのだろうか。

 社会部記者・吉田真紀(よしだ・まき) 長崎市出身、2007年入社。都市圏総局や熊本総局などを経て、16年9月から社会部。防災や医療を担当。34歳。

「あなたの特命取材班」が迷惑メールの裏側をえぐる記事

迷惑メールを追う(上)「1日2億通」システム開発者が証言 甘い言葉で“出会い系”誘導

迷惑メールを追う(中)記者が返信してみたら…潜んでいた“二重のわな”

迷惑メールを追う(下)なぜ届く?流出情報をカネにする「名簿屋」

   ◇   ◇

 1月にスタートした「あなたの特命取材班(あな特)」。読者から2千件を超える調査依頼が寄せられ、100本以上の記事を掲載、全国から反響を呼んでいます。15日からの新聞週間に合わせ、「あなた」のために奔走する記者たちが取材の舞台裏を紹介します。

広がる「あな特」の輪

 会員制交流サイト(SNS)などを活用して読者と記者がつながり、「知りたい」にこたえる「オンデマンド調査報道(ジャーナリズム・オン・デマンド、JOD)」の取り組みが、本紙企画を皮切りに各地の新聞に広がっています。

 6月に福岡市で開いたJOD研究会には、9紙の幹部や記者ら約60人が参加。これに先立ち、4月に中国新聞が「こちら編集局です-あなたの声から」、9月には琉球新報が「りゅうちゃんねる~あなたの疑問に応えます~」を始めました。他紙も同種の企画を準備中です。本紙は東京新聞、琉球新報と連携協定を結び、調査依頼の共有や記事の相互交換もしています。これからも読者に寄り添う伴走型の調査報道を続けます。(あなたの特命取材班)

=2018/10/15付 西日本新聞朝刊=

PR

九州ニュース アクセスランキング

PR

注目のテーマ