【産業医が診る働き方改革】<25>心臓疾患からの復職

西日本新聞

 鈴木正治さん(54)=仮名=は工業機器会社の技術専門職です。仕事中に失神し、原因を精査するために入院しました。検査の結果、心臓の筋肉が非常に厚くなる「肥大型心筋症」に、危険な「致死性不整脈」を合併したことが失神の原因と判明しました。健康診断で異常を指摘されたことはなく、自分では健康と思っていたため、大きなショックを受けていたようです。

 致死性不整脈については、自動的に電気刺激を起こし、心拍を整える「体内植え込み型除細動器(ICD)」での治療が施されました。他の治療法に比べ、予後を改善させる効果が科学的に証明されていますが、いくつか問題点もあります。治療後や作動後は一定期間、車の運転が制限されます。また、電磁波が発生する職場(溶接作業現場など)では誤作動して意識を失う恐れがあります。注意しないと、事故につながりかねません。

 従業員が50人未満の鈴木さんの会社には産業医がいませんでした。このため、主治医であり心臓専門医の私が上司と連絡を取り合い、復職に向けて具体的な注意点を伝えました。職場で鈴木さんが移動する可能性がある場所全ての電磁環境調査も行い、安全を確認してもらいました。鈴木さんには「ストレスで致死性不整脈が起こる可能性もあるので、無理をしないように」などと伝えました。

 国内では、心臓の異常が原因の突然死が年間約7万人も発生しており、約3割は69歳以下です。ある日突然、心肺停止状態となり体外式除細動器(AED)で一命を取り留めた人、心臓の働きが低下しており、突然死の予備軍ともいえる人…。年間約9千人がICD治療を受け、うち60歳以下の就労世代が約半数を占めます。鈴木さんのように、ICD治療後に職場復帰する患者さんは少なくありません。

 鈴木さんは当初、バス通勤で苦労したようですが「電磁波の影響を心配せず、働けるのが一番良かった」と話しています。主治医が患者の職務内容をある程度把握し、退院後の注意点を患者だけでなく、職場にも伝えておくことは非常に重要なのです。

 (安部治彦=産業医大教授)

=2018/10/08付 西日本新聞朝刊=

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