フォーク編<396>私のベストソング(5)

西日本新聞

 福岡県久留米市の松尾洋子(66)がその歌を聞いたのは高校1年の終わりごろだ。クラスで発表会があり、クラスメートが3人で「PPM(ピーター・ポール&マリー)」の「時代は変わる」を歌った。ボブ・ディランの楽曲だ。

 「歌のうまさとかではなく、英語の歌詞で歌っているところがかっこよかった」

 同級生に声をかけ、PPMの曲をカバーするバンド「シャインズ」を結成した。担当はピーター=岸田正純、ポール=福井正登、マリー=松尾洋子。

 「英語の歌詞をノートに書き写して、レコードを聴きながら覚えました。当時、意味は断片的にしか分かりませんでした」

 文化祭などで演奏したが、2年生のときに病気になり、1年、休学を余儀なくされ、自然解散の形になった。活動期間はわずか1年間だった。

 松尾は短大に進学、フォークソング愛好会を結成し、弾き語りで森山良子などを歌っていた。その後、久留米を離れ、大阪へ。40歳ごろに家族で久留米に戻ってきた。同窓会で当時のメンバーと再会し、「また、始めようか」との話になった。

 2期シャインズがスタートするのは松尾が49歳で中華チマキと豚まんの店「知味斉(ちみさい)」を開いたころに重なる。松尾が小学校高学年のころ、父親が久留米市内でラーメン屋をしていた。「知味斉」はそのときの屋号である。味を知る人、所、という意味合いだ。

 「店を始めるとき、この名前をもらおうと思って父に相談しましたが、うれしそうでした」

 豚まんは大阪時代に慣れ親しんだ味だった。

 「食べ物の店をやろうと思ったとき、あまり、道具がいらなくて、当時、久留米にないものを、と考えました」

 我流のレシピである。試行錯誤しながら「知味斉」の味を作り上げた。

 シャインズの方はブランクがあり、近くの閉店したスナックを仲間たちで借り、そこをレッスン場にして形を整えていった。歳月の中で、歌詞の意味も分かり、かみしめるようになった。

 「PPMの曲は反戦や環境問題など社会性のあるものが多く、現在でも訴える力があります」

 先月、福岡県の筑紫野市文化会館で開かれたミュージックフェスタ「DA・N・KAI」にも出演し、PPMの曲を歌った。

 朝4時に起きてその日の仕込みに入るが、小さな厨房(ちゅうぼう)もまた、練習場だ。PPMのCDをかけながらそれに声を合わせていく。

 「練習をしないと声が出ないようになる」

 豚まんはPPMの曲が隠し味になっているようだ。 =敬称略

 (田代俊一郎)

=2018/10/15付 西日本新聞夕刊=

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