見過ごされる大人の発達障害 難しい診断 「子どもの障害」先入観も 統合失調症などと誤認、進まぬ治療

西日本新聞

注意欠陥多動性障害の女性は、仕事や家事を忘れないよう手帳に1日の流れを細かく記している。「診断を受けたことで、いろんな対策ができるようになった」

 対人関係を築いたり、集中力をコントロールしたりするのが苦手な発達障害。幼少期での早期診断の大切さが叫ばれる一方で、大人になってから診断される人も少なくない。なぜ見過ごされているのか。背景には、いまだ「子どもの障害」との先入観が根強いことや、成人を診る精神科医に発達障害を専門とする医師が少ないことなどがある。

 「もっと早く発達障害と分かっていたら人生変わっていた。17年間を返してほしい」。九州北部の男性(34)は高校時代、地元の精神科で統合失調症と診断されて治療を続けてきたが、昨年入院した九州大病院(福岡市)で発達障害の一つ、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された。

 常に誰かに監視されているような妄想を抱くようになり、高校の教師に促され受診した。一方で幼少期から、物の配置が変わると落ち着かなかったり、合唱がうるさく感じたりしていた。周囲からは「変わったやつ」と言われていた。

 治療薬は多いときで9錠。副作用で昼夜逆転し、大学もほとんど通えなかった。就職先のスーパーでは、「たこ焼き二つ取って」と言われてパックを開けて中身を二つ渡してしまうなど上司の指示が理解できず、居づらくなって辞めた。

 病状が好転しないのを疑問に思い、別の2病院を経て、紹介された九大でASDと診断された。退院した今は、薬は睡眠導入剤など3錠になり、社会復帰に向けて生活リズムを整え、対人スキルを学ぶ精神科のデイケアに通っている。

 九大で男性を担当した中尾智博医師は「当時は発達障害に詳しい医師は少なかった。発達障害の影響で統合失調症に似た症状が出ることはあり、誤診とまでは言えないが、もう少し早く見つかり支援を受けられていればよかった」と話す。

 福岡市の自営業女性(43)も3年前、発達障害の一つ、注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断された。

 26歳で結婚後、家事がうまくこなせず夫から怒られる日々が続いた。2年後にうつ病や適応障害と診断され、離婚。症状が改善した後に再婚した今の夫が、パソコンは得意だが、家事や金銭管理が苦手な女性を「発達障害ではないか」と疑い、専門のクリニックで3カ月待って診断を受けた。

 夫と家事分担し、治療薬を飲みながら仕事を続けている。「ADHDは子どもの障害と思っていた。私の場合は夫が気付き、支えてくれた。今も発達障害と分からず、一人で苦しんでいる人がいるのでは」

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 身体障害などと異なり固有の手帳制度もなく、発達障害者の正確な数は不明だ。文部科学省の2012年調査は、公立小中学校の児童生徒の6・5%に発達障害の可能性があると推計する。「発達障害者が増えているのではなく、産業構造や診断基準の変化で気付かれるようになっただけだ」。九大総合臨床心理センターで当事者から相談を受ける黒木俊秀教授(精神医学)は指摘する。

 農林水産業や工業が中心だったころは「決まった仕事をこつこつやる人」「こだわりが強い人」も受け入れられてきた。だがサービス業中心の今は、協調性や柔軟な対応力が重視され、職場になかなか溶け込めない人の存在が表面化しやすくなったという。

 精神疾患の国際的診断基準「DSM」に1994年、広汎性発達障害とアスペルガー症候群が新しく規定され、知的障害を伴わない発達障害にスポットが当たったことも大きい。当初は子どもの障害とみる向きが強かったが、2005年に発達障害者支援法が施行され、大人への診断も少しずつ広がっていった。

 ただ、児童精神科医は発達障害を学んでいるのに対し、成人を診る精神科医の大半は、統合失調症やうつ病などが専門だ。発達障害の治療には、親に成育歴を聞いたり、知能検査をしたりと手間がかかるため、志す医師も少なく、結果、見落としがちになる。

 一方で大人の発達障害に特化したデイケアなどは数が限られ、診断後も適切な支援につながらない“支援難民”は少なくない。中には診断をきっかけに会社に解雇された人もいるという。「診断によって『生きづらさ』が本当に解消されるか、見極めて受けてほしい」と黒木教授は話している。

=2018/10/16付 西日本新聞朝刊=

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