【こちらあなたの特命取材班】(5完)公園トイレ「紙なし」に反響、ネットで賛否 取材の舞台裏

西日本新聞

 なぜだろう-。入社して2カ月が過ぎた6月中旬、私は取材先に向かう電車内で考えていた。

 福岡市内に住む80代男性から特命取材班に調査依頼の電話がかかってきたのは、電車に乗る30分ほど前だった。「近くの公園のトイレにトイレットペーパーが常備されていない。どうやって使えというんだ」。グラウンドゴルフの最中に腹痛に見舞われたものの、紙がなく困ったのだという。

 男性が言う同市東区の千早中央公園に着き、個室トイレの扉を開いた。確かに紙はない。紙のホルダーすら設置されていない。市内の他の公園を回っても、紙やホルダーはなかった。不思議な光景に面食らった。

 「利用者の気持ちはよく分かりますが…」。管理する市役所に行くと、担当者は神妙な表情を浮かべた。実は少なくとも25年前から、トイレがある市管理の公園約380カ所のうち、約360カ所で同様の対応を取っているという。「紙の盗難や、放火などのいたずらが懸念されるため、やむを得ないのです」

 日本トイレ協会(東京)によると、防犯面を重視して「紙なし」とする自治体は全国で多いらしい。九州の県庁所在地の自治体に聞くと、熊本、大分、鹿児島の3市は紙なし。一方、佐賀、長崎、宮崎の3市は紙ありと、対応は分かれた。

 公園利用者の声も聞いた。7月の炎天下、トイレの個室に入ってすぐに出てきた人を直撃したが、断られ続けた。用を足そうとしたら紙がない-という衝撃を受けた方々にとって、私はうっとうしかったに違いない。それでも、20代男性がはやる気持ちを抑えて感想を語ってくれた。「紙がないとは知らなかった。何のための公衆トイレなんだ」

      ■

 記事掲載後、ウェブ版のコメント欄には多くの賛否両論が書き込まれた。「トイレ利用を有料化した上で紙を常備すればいいのでは」「モラルのない人がいるのだから市の対応は当然だ」。自分の記事をきっかけに、インターネット上で読者同士の議論に発展しているのを見て、背筋が伸びる思いだった。

 新聞記者になる前は、事件事故や選挙など「硬い取材」をイメージしていた。今回の取材を始めた当初も、「記事になるのかな」と半信半疑だった。

 けれど、調べてみると、さまざまな発見があった。公共サービスはどこまで充実すべきか、利用者の自己責任の範囲は-。要はバランスの問題なのだろう。読者からの素朴な疑問を受け止め、現場に走る大切さを感じた。

 札幌市や大阪市のように、近年は住民の要望を受けて紙を常備する自治体もある。たかがトイレとはいえ、2020年東京五輪・パラリンピックを控え、公共の場における「おもてなし」の在り方を考える材料になるのではないだろうか。

 =おわり

 唐津支局記者・津留恒星(つる・こうせい) 熊本市出身、2018年入社。社会部を経て18年8月から唐津支局。原発担当のほか、唐津くんちなど取材。22歳。

「あなたの特命取材班」がトイレ「紙なし」問題を追った記事

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=2018/10/19付 西日本新聞朝刊=

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