昨年亡くなった医師の日野原重明さんは京都大卒業後、付属病院に勤めた…

西日本新聞

 昨年亡くなった医師の日野原重明さんは京都大卒業後、付属病院に勤めた。最初に担当した患者の1人に紡績工場で働く少女がいた。診断は結核性腹膜炎。16歳だった

▼少女は日曜日になると高熱や腹痛を訴えた。他の患者には見舞客が訪れるが、彼女は他県にいる母親が唯一の肉親。クリスチャンの日野原さんは朝から教会に出掛け、行事に追われる身。「先生は日曜日は来られない」。少女は寂しさを漏らしたという

▼7月の日曜日、容体が悪化。「日曜にも来ていただきすみません」と日野原さんに謝る少女。「お母さんには心配を掛け続けで申し訳なく思っていますので、先生からよろしく伝えてください」と言い残して息を引き取った

▼こちらの少女も母親に、家族に伝えたい言葉はたくさんあっただろうに。愛媛県でアイドル活動をしていた女性が自らの手で命を絶った。同じ、まだ16歳の若さで

▼遺族は所属会社を提訴した。長時間労働やパワハラで精神的に追い詰めたと主張する。事実は裁判で解明されるだろうが、どこかに、何とか、最悪の結果を防ぐ手はなかったのか。生前のはじけるような笑顔が痛ましすぎる

▼少女をみとった若き日野原さんは後悔の念を刻んだ。「脈をみるより、どうしてもっと彼女の手を握ってあげられなかったのか」。だから生涯伝え続けた。あなたの手を握って気持ちを和らげてあげたいという人は必ずいます-。

=2018/10/22付 西日本新聞朝刊=

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