目の動きでパソコン操作 普及広がる 難病の小4、図工や音楽の学習も

西日本新聞

両親に見守られ、視線入力で画面上の風船を割るゲームを体験する原琴葉留さん(手前) 拡大

両親に見守られ、視線入力で画面上の風船を割るゲームを体験する原琴葉留さん(手前)

講演した伊藤史人さん。実際に視線入力を活用している川崎市の男性も映像で出演した=20日、福岡県小郡市

 重い障害のある人が、意思疎通の手段として自らの目の動きでパソコンを操作する「視線入力装置」の普及が広がりつつある。関連機器が比較的安価で入手できるようになり、手足を動かすことが難しい子どもの学習やリハビリでも活用されている。視線入力導入の第一人者として知られる島根大助教の伊藤史人さん(43)が20日、福岡県小郡市で講演。情報通信技術(ICT)の活用が障害者や難病患者の暮らしを劇的に変えた実例を紹介し、「こうした子どもの可能性を信じる姿勢が大切」と、支援者側の心構えを強調した。

 講演会は、重症心身障害児の通所施設を運営する一般社団法人「ミルキーウェイ」(佐賀県鳥栖市)が主催。「20年前ならコミュニケーションが取れなかった人でも、きちんとした技術を活用すれば、さまざまなことができる」。療育関係者や重症児、保護者ら参加した約50人を前に、伊藤さんは力を込めた。

 視線入力装置は、ノートパソコンなどのディスプレー側に取り付け、利用者が画面をじっと見つめる視線を検出し、入力につなげる仕組み。安価なものは約2万円で購入でき、装置を動かす視線入力対応ソフトも多くの企業や大学が開発、無料でも提供されている。

 肢体不自由の程度が重いために、キーボードや物理的なスイッチを押せない人でも、画面上の五十音の文字盤を見つめるだけで文字を入力して意思を伝えたり、絵を描いたり、ゲームを楽しんだりすることが可能となる。

 徐々に筋力が衰えていく難病の筋疾患がある福岡県内の特別支援学校小学部4年生の女の子は、同校教諭の指導を受けながら自宅で視線入力の環境を整えて活用中。文字入力を覚え、図工、音楽を含めた学習も楽しんでおり、今は「ゲームのプログラミングにも挑戦している」(伊藤さん)。

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 講演には、同じく日常生活で視線入力を活用している宮崎県と川崎市の男性2人が、インターネット回線を通じて映像で登場。伊藤さんと双方向でつながり、ゲームや文字盤入力をリアルタイムで実演した。

 川崎市の男性はかつて、「病気が進行して動けなくなれば何もできなくなる」と生きる気力を失いかけていたものの、コンピューターとネット環境があれば「できることがたくさんあると分かった」ことから、人工呼吸器を着けることを選択したという。一眼レフカメラもパソコンで操作し、写真が趣味だ。

 視線入力を含むICTが、もはや特別支援教育での教材にとどまらず、重い障害者の「暮らしに欠かせないツール」となっている半面、伊藤さんが危惧(きぐ)するのは、予算などを理由にそうした機器を導入していない学校現場が多いこと。「どうせできない、そもそも分かるはずがない、と過小評価し、結果的に子どもの可能性をつぶしているようにも映る」と手厳しい。

 注視する時間は人によって異なるため誤入力があるほか、意思を持って見ているのか、そうでないかの判断も必要になるため、簡単に活用できるわけではない。だが関連機器をきちんと固定するなど環境を整え、本人が「やれた」と実感できる成功体験を積み重ねていくことで「機器の扱いは上達し、継続することで用途も広がっていく」と伊藤さんは言う。「全国で何十例も見てきたが、ICTに強い必要は全くない。重度の障害者は日々、諦めることを強いられがち。その人を何とかしたいという情熱があれば何とかなる」。家族や福祉関係者など本人の身近にいる支援者に一歩を踏み出すよう、提言した。

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 会場には、実際に視線入力装置を付けたパソコンも用意された。両親が見守るなか、福岡県久留米市の原琴葉留(こはる)さん(14)は画面の風船を見つめて割るゲームを体験、笑顔を見せた。母の尚美さん(56)は「今までとは違う楽しみ方で、すごく興味がある。だんだん筋力が落ちてくる病気ですが、目の動きはすごく活発なので、支援学校でも活用してほしい」と目を細めた。

 伊藤さんは一連の活動を自身のフェイスブックやブログ「ポランの広場」で公開している。

=2018/10/25付 西日本新聞朝刊=

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