ブラッドベリの小説「華氏(かし)451度」(1953年)は、読書や本の所有が禁じられた未来を描く…

 ブラッドベリの小説「華氏(かし)451度」(1953年)は、読書や本の所有が禁じられた未来を描く。市民が本で「有害な知識」を得て社会の秩序が乱れるのを防ぐためと政府は説明する

▼人々は権力者に都合のいい情報だけを与えられ、自ら考え行動する力を失っていく-。カ氏451(セ氏233)度は紙が自然発火する温度という。同書にちなんだ題名の映画がある。米国のマイケル・ムーア監督の作品だ

▼「華氏911」(2004年)。米中枢同時テロが起きた9月11日を示す。来月、日本でも公開される新作は「華氏119」。トランプ氏が米大統領選で勝利宣言した11月9日を意味する。前作は当時のブッシュ政権、新作はトランプ政権が標的。権力者に不都合な事実を暴露し痛烈に批判する

▼ジャーナリズムの第一の使命は、権力が隠したがる事実を人々に知らせること。取材の場が平和な国内だろうと、戦場であろうと、時には命すら危うくなるのは同じだ。サウジアラビアの記者殺害事件を見れば合点がいこう

▼内戦下のシリアで武装勢力に拘束された安田純平さんが解放された。誰もが無事を喜んでいよう。一方で、危険地域に入り拘束されたのは「自己責任」との批判もくすぶる

▼だが、誰かが危険を冒してでも、見えない場所で何が行われているかを伝えなければ、どうなるか。民主主義や人権が自然発火する世界は小説の中だけでいい。

=2018/10/26付 西日本新聞朝刊=

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