【トランプへの審判 2018米中間選挙】「好景気」躍らぬ有権者 製造業で解雇頻発 不安根強く

西日本新聞

 6日に投開票が迫る米中間選挙で多くの有権者が重視する政策は「景気・雇用」だ。トランプ大統領は就任から2年足らずで高成長と低失業率を実現したと強調。「米経済は史上最高の状況だ」と豪語し、その持続には与党共和党の勝利が不可欠と訴える。だが公約である国内製造業復活のため輸入品に高関税を課すなど強引な通商政策を推し進めた結果、支持基盤の中西部や東部で工場労働者が解雇される事態が頻発。看板の「好景気」も腰折れの懸念が強まり、選挙戦術に暗雲が垂れ込めている。
 (ワシントン田中伸幸)

 「鉄鋼業は今、一番熱い産業だ」。10月27日、中西部イリノイ州を訪れたトランプ氏は下院選の共和党候補の応援演説で、米鉄鋼大手「USスチール」が6月、選挙区内の街グラニットシティの工場で生産を再開したことを強調。自身の通商政策の成果だと訴えた。

 同社は中国の過剰生産による価格下落の影響をもろに受け、2015年に同工場を休止。1500人以上を解雇した。その1人クリス・ブラグさん(47)は、3人の息子を育てるため建設業に転職したが、給料は半減。食費などあらゆる出費を切り詰めた。「政府は無策だった。俺たちは見捨てられた」

 苦境を救ったのが鉄鋼業復興を掲げるトランプ氏だ。今年3月、輸入鉄鋼に25%の追加関税措置を発動した結果、国産品の需要が増え、同社の業績は急激に回復。工場の生産再開で800人近くが雇用され、ブラグさんも職場に戻った。

 9月の労働者パレードで、ブラグさんは誇らしげに先頭を歩いた。「トランプは実行の男だ。公約のインフラ整備が進めば生産はもっと増える。米国の鉄鋼業は力強く復活するよ」

 地元市民の表情も明るい。不動産業者は「住宅購入者が増えて売り上げは倍増した。トランプが街を良くしてくれた」とたたえた。

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 一方、かつて「鉄の街」と呼ばれた東部ペンシルベニア州コンショホッケンでは、欧州の鉄鋼大手「アルセロール・ミタル」の工場が8月、生産を休止した。

 休止の決定は昨秋。トランプ政権は大規模なインフラ整備を行うとしていたが、同社はその実現可能性を疑い「需要の伸びは限定的」と判断した。その後、政権はインフラ整備の規模を1兆5千億ドル(約170兆円)以上と発表。輸入鉄鋼に対する追加関税も発動したが、同社は判断を変えず、125人の解雇を決定。解雇者はさらに増える見込みだ。

 10月下旬、工場を訪ねると、構内は閑散として、車両の出入りもまばら。ここで16年働いたブルース・サンダーランドさん(68)は近日中の解雇通告を覚悟しているという。それでもサンダーランドさんは「不公正な貿易を是正する関税措置は正しい」とトランプ氏を支持する。「でも、鉄鋼の仕事に戻れる希望は高くない」とも語った。

 トランプ政権の追加関税措置後、鉄鋼の価格は約3割上昇。多くのメーカーの業績は好転した。だがその恩恵が鉄鋼労働者全体に届いているとは言い難い。しかも、中西部の自動車メーカーや芝刈り機メーカーでは、鉄鋼資材の高騰により生産縮小や従業員の解雇に踏み切るなど、副作用も顕在化し始めている。

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 トランプ政権の通商政策によって米経済に生じつつある明暗。野党民主党にとって「暗」の分野は中間選挙で格好の攻撃材料だ。

 コンショホッケンを選挙区とする民主党下院議員候補マデライン・ディーン氏は、地元鉄鋼労働者の苦境を記者に説明し「トランプ政権は雇用を守れていない」と主張した。

 中国や日本、欧州連合(EU)など多くの国々の通商政策を「不公平」と非難し、「是正」を要求するトランプ氏には労組など民主党支持層にも一定の支持がある。ディーン氏は選挙戦でその負の側面を問い、有権者に熟考を求めている。

 対する共和党候補のダン・デイビッド氏は、こう反論する。「どんな政策もすべての労働者を救うことはできない。だが経済全体は好調。鉄鋼以外で仕事を探すことは十分可能だ」

 大統領就任後、雇用を420万人以上増やしたと誇示するトランプ氏の発言を踏まえた主張だ。だが、これにはトランプ支持のサンダーランドさんでさえ「そう簡単ではない」と批判する。「危険の伴う鉄鋼工場の仕事は給料が高い。他ではそうはいかない」

 トランプ氏の「米国第一主義」による国内製造業復権の実現可能性には懐疑的な見方も根強い。鉄鋼労働者からも「増産がいつまで続くかは分からない」「賃上げにはつながるのか」など不安の声が上がる。

 トランプ氏の政策の恩恵を受けた「勝ち組」のブラグさんは自身の現状に満足しつつ、複雑な思いも抱く。「関税措置の副作用は気掛かりだ。米国のすべての労働者が幸せになってほしい」。そして自分に言い聞かせるように語った。「最終的にはトランプが解決してくれると信じている」

 ブラグさんは中間選挙について「暮らしを良くしてくれる人に投票する」とだけ話し、投票先は明言しなかった。「誰に投票するか仲間に言い広めたり、呼び掛けたりするつもりはない」。そう語る表情に、希望を託すトランプ氏によって米社会が「勝ち組」「負け組」に分断されつつある現実への戸惑いが透けて見えた。

 ●トランプ氏「私のため投票を」 激戦区 繰り返し訪問 労働者つなぎ留め躍起

 「グラニットシティの工場再開はほんの序章だ」。トランプ氏は10月のイリノイ州での演説でこう述べ、米経済はさらに好転すると自信を示した。だが、この下院選挙区でも与党共和党候補が野党民主党候補の追い上げを許すなど、下院選では全米で民主党の優勢が伝えられる。大型減税を含む経済政策の「成果」が有権者に思うように響かない実情に焦るトランプ氏は激戦区を何度も訪れたり、追加の経済政策を唐突に打ち出したりと、てこ入れに懸命だ。

 トランプ氏の同選挙区遊説は7月に続き2度目。この選挙区は2016年の大統領選でトランプ氏が大勝した地域。鉄鋼生産再開の追い風も受けて共和党候補が有利のはずだったが、世論調査では「接戦」。トランプ氏の相次ぐ現地入りは危機感の表れだ。

 イリノイ州の隣の南部ケンタッキー州は、共和党上院トップを輩出する保守王国。だが、ここでも現職の共和党候補が新人の民主党候補と激しく競る下院選挙区がある。

 背景には、同州名産のバーボンウイスキーが追加関税への報復措置の対象として各国から標的にされていることがある。「バーボン業界が打撃を受ければ、州の観光など影響は広範囲に及ぶ」。バーボン製造会社の幹部(37)は懸念を隠さない。

 製造業の解雇の動きや報復関税に伴う輸出減など「副作用」は現段階では局所的で、中間選挙への影響は軽微との見方もある。しかし、トランプ氏は選挙戦終盤になって突然、中間層向けの追加減税の検討を表明。医療保険制度の充実も繰り返し訴えるなど家計支援に絡む政策を矢継ぎ早に打ち出している。財政悪化への批判には耳をふさぎ、なりふり構わぬ必死さだ。

 トランプ氏の遊説先は支持層の白人労働者が多い東部や中西部の「ラストベルト(さびた工業地帯)」や共和党地盤の南部がほとんど。今回は自身の選挙ではないにもかかわらず「私のために投票を」と懇願調の場面も目立つ。その視線の先には次期大統領選での再選を描いているように映る。

=2018/11/05付 西日本新聞朝刊=

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