吉田羊 「未熟な」母を全力で演じる 映画「母さんがどんなに僕を嫌いでも」

西日本新聞

 映画「母さんがどんなに僕を嫌いでも」(16日公開)で吉田羊=福岡県久留米市出身=が子どもを虐待する母親という難役に挑んでいる。「観客に好かれることは一切捨て」母親となる心の準備ができていなかった一人の女性を体当たりで演じ切った。「この映画が、当事者を救う環境づくりに一役買えたらいい」。認知件数が増加の一途をたどる児童虐待。心の傷をかかえる人たちへの寄り添い方のヒントになることを願っている。

「孤独救う環境づくりに」

 漫画家・歌川たいじの実話を基にした同名コミックエッセーを原作に、御法川修監督がメガホンを取った。幼少期から母の光子(みつこ)(吉田)に拒絶されてきた主人公のタイジ(太賀(たいが))は、17歳で家出。長く絶縁していたが、社会人劇団に入ったのをきっかけに再び母と向き合おうと決意する。

 吉田は撮影前、歌川から話を聞くなど「光子さんという人物を理解しようとした」と振り返る。「でも聞けば聞くほど虐待につながる心持ちが理解できなくて、途方に暮れた」

 ヒントになったのは「でこぼこで、不完全で、不安定なまま演じてくれればいい」という監督の言葉だ。子どもを産んだからといって心もそのまま同時に「母親」になれるわけではない。光子は心が未熟なまま、社会の中で「母親」役を強いられた女性なのだと思い至った。「母親というものが分からないながらも、もがきながら生きていたのではないか」。役柄を理解できない吉田自身が光子の姿と重なると考えた。

 夫との不仲で情緒不安定な光子は残酷な言葉や暴力をタイジに向けるが、タイジは母へのいちずな愛を捨てきれない。母の手料理を再現することで母への愛情を示そうと、まるでラブレターのように登場するまぜご飯が印象的だ。

 吉田にとって忘れられない「母の味」はミートソース。誕生日など吉田家の定番のごちそうで、昨年も久留米の実家から母が持ってきてくれた。「いまだに冷凍庫の奥にあって。(もったいなくて)なかなか食べられない」。手料理を大切にした光子にも、子どもを思う気持ちがあったのだと感じた。

 暴力、育児放棄、過干渉…。一口に「虐待」と言っても親子によってさまざまな形があるが、吉田は「虐待に走ってしまう方の多くが孤独を抱えていると聞く」と語る。タイジは仲間に励まされ、母の孤独に気付いて立ち上がる。周囲の助けが少しずつ親子を変えていく。

 「当事者を直接救うことはできなくても、その痛みについての情報を共有できれば」。思いを込めた吉田の演技は、一人でも多くの共感者を生むはずだ。

=2018/11/12付 西日本新聞夕刊(娯楽面)=

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