柴田淳の今 赤裸々に 新盤「ブライニクル」 人生の深みも感じる10曲

西日本新聞

 シンガー・ソングライターの柴田淳が約1年ぶりに12枚目のアルバム「ブライニクル」をリリースした。さまざまな別れの模様が演じられる舞台のような10曲。切ない離別もあるが、多くは涙とは無縁の覚めた感情が伝わってくる。「温かいウォーミーなものを避けている自分がいる」。耳に残るウエット感ある声で送り出される楽曲は柴田の今を赤裸々に表している。

 「ブライニクル」とは南極の海中で極めて低温の塩水が流入した時につららのような形の凍結が起きるとされる自然現象で、触った生物を死に至らしめるという。創作時に極限状態となり、外部との連絡を一切絶ったという柴田。もし接触しようものなら…。その状態がちょうどブライニクル現象とよく似ていると思い、いくつか残っていたタイトル候補の中から選んだ。

 収録曲の中で特に印象深いのが「夜明けの晩」と「人間レプリカ」だ。

 5曲目の「夜明けの晩」はアカペラ。インストゥルメンタルか弾き語りにするつもりで1曲枠を開けていたが制作がうまくいかず、「アカペラがある」。最初は「ラララ」で終わろうと思ったが、「メロディーが言葉を呼んだ」。〈茜色(あかねいろ)した空から 聞こえてくる鳥の歌…〉と語る詞は、生まれて初めて他人がそばにいる家の外で書き上げた。どことなく懐かしい旋律に乗せた不思議な言葉は、それまで繰り広げられた別離の物語に荒らされた心にほっと一息つかせる。

 だが、安堵(あんど)感は次に出てくる「人間レプリカ」で無情にも壊される。〈笑いもせず 怒りもせず まるで人間レプリカ/心は枯れたの ほら がらんどう〉。自分勝手な相手の仕打ちに感情を失ってしまった主人公。「印象が今までになく攻撃的」と本人が言うように、舞台「ブライニクル」第二幕はいきなり心に迫ってくる。

 波乱の舞台を締めるのは、唯一歌詞に希望がある「嘆きの丘」。〈悲しみも苦しみでも何もかも 疲れたなら いつでもここにおいで〉。柴田は「自分自身が求めていた歌を自分で書いた。救われちゃった」と語るが、救われるのは柴田だけではない。別れに関するさまざまな感情に出合った心に安らぎを与える。

 先輩ミュージシャンから「なぜそこまで自分をさらけ出す」と言われてきたという柴田。だが、さらけ出しているからこそ、その歌は琴線に触れる。「ブライニクル」に触れた時、人は死に至るのではなく、人生の深みを感じ取る。

=2018/11/17付 西日本新聞夕刊(娯楽面)=

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