「卒親」できる?親と子の本音 依存してしまう背景とは

西日本新聞

福岡県立大専任講師・阪井裕一郎さん NPO法人ペアレント・スキルアップ福岡理事長・佐藤由美さん

みんなのモヤもや会議

 今月のテーマは「卒親」。昨年、漫画家の西原理恵子さんが子どもたちに「卒母宣言」をして話題になりました。親子関係を巡っては、友達のように仲のいい親子が増えているという統計もあれば、子どもに干渉しすぎる「毒親」という言葉もあります。あなたにとって卒親とは何ですか。子離れ、親離れはしていますか。読者から寄せられたもやもやを聞くと、多様な親子のかたちが浮かび上がります。女性や若者を取り巻く日本特有の社会状況も関係しているようです。

読者の声~親の気持ち~

▼主婦(70)=宮崎市
 息子2人が定職に就いて結婚し、孫ができた時「親を卒業したな」という感じがした。自分たちで子育てをしているのを見て、そういう気持ちになった。「今から先は自分の人生を楽しもう」と思っていて、親を卒業できてよかったと感じている。もし子どもが定職に就かなかったり借金に苦しんでいたりすると、親の役割を卒業できなかった。卒親は、子どもがそれなりの生活をできるようになったことの証しでは。

▼会社員男性(50)=福岡市早良区
 中学3年の長男は県外の私立中で寮生活。めったに電話もないし、こちらからかけても「何か用」と素っ気ない。もう少し頼ってくれてもいいのにと思うこともある。困ったことが起きても、自分で解決してしまうんだろう。「寮に帰る」と言うくらいあちらがホームになっていて、進学と同時に金銭面以外は卒親させられてしまった気分でちょっと寂しい。

▼看護師女性(59)=福岡市西区
 子どもたちが順次家を出て、昨年から夫婦2人暮らしになった。用事にかこつけてLINE(無料通信アプリ)をするが、息子の返信はほとんどない。娘たちからはあるが、面倒くさそうな様子。料理を作りすぎて持っていくと迷惑がられる。子どもたちは親離れしたが、私が子離れできておらず、目下、最大の課題。子離れと卒親は違う。卒親はしない。子どもが挫折したとき、心身を休められる場所でありたいから。

▼会社員男性(55)=福岡市城南区
 京都に住む大学4年の息子と妻の家族3人で、LINEを通して1日に100件以上やりとりすることがあり、離れている実感がない。就職活動も面接の受け方などをアドバイスした。「お金がない」と頼ってくるなど、息子にうまく利用されている気もするが…。自分でも過保護と思うが、たくましく育ったので間違いではなかったと思っている。卒親できそうにないが、来年から社会人。手を離していかないと。

▼パート女性(45)=長崎県佐世保市
 息子が地元と県外のどちらに就職するか決めるとき「20年近く『○○君のお母さん』だった私はどうなるの?」と怖くなった。夫の帰宅は午後9時すぎ。息子のいない生活は考えられなかった。結局、息子は地元に就職し自宅から通っているが、あまり干渉しないようにした。自分の生活を楽しむため、絵画を始めるなどしたが、時々ぽっかりとした喪失感がある。男は仕事で、女はいつも待つ側。なんだか損ですよね…。

 

読者の声~子どもの気持ち~

▼会社員女性(28)=福岡県那珂川市
 進学で家を出ても、就職しても、結婚しても母親が子離れしてくれない。3日に1回は電話で近況報告をしている。電話に出なかったら、何回もしつこくかけてくる。心配して私の夫にまでかけることも。

 過干渉も愛情表現の一つと思ってきたが、最近は執着かなと感じる。いつまでも自分のことを頼ってほしいし、私のことを把握したいんだと思う。母親が仕事を辞めてから特にひどくなった。夢中になれる趣味を見つけて卒親してほしい。

▼会社員男性(25)=福岡市中央区
 離れて暮らす親から、台風のたびに「大丈夫か」と電話がかかってくる。もう社会人。自分で判断して行動できるのになと思う。

 子どもの頃は、礼儀作法のこと以外は自由にさせてくれたから、うちの親は放任主義だと思っていた。

 でも実家を出てから、以前より心配されるようになった。月1、2回は近況を知らせる電話がくる。心配させたくないので、用事で遠方に行くときは自分からも連絡するようになった。

▼会社員女性(26)=福岡市中央区
 高校を卒業後、4年間カナダの大学に留学した。家事も手続きも自分でやらざるを得ない環境になって、必然的に自立した。親にとっては高校生のまま止まっていたから、帰国後は戸惑ったみたい。過保護と思うときもあるが、甘やかしてくれるなら甘えとこうかなって感じ。自分は楽できて親も喜ぶなら、ウィンウィンの関係じゃないですか。

▼会社員女性(46)=福岡市早良区
 大学まで実家暮らしだったので就職を機に経済的、精神的に自立しようと県外へ出た。でも実際は体調を崩すたびに、母が心配して駆け付けていた。

 母に対して反発もあったが、自分が母親になった今、感謝の気持ちしかない。1人の子どもを、大きな病気やけがもさせずに育て、成人させるという仕事は、本当に大変なことだと思う。これからは親の介護が待っている。親子である限り避けようがない。卒親というより、適度に距離を保って、親を見守るつもりで接していきたい。

   ◇   ◇

「卒母できる社会的環境を」 福岡県立大専任講師・阪井裕一郎さん

 「卒母」という言葉は最近よく聞かれるようになったが、「卒父」は聞かない。背景には日本のジェンダーを巡る問題がある。

 「男は外で働き、女は家庭を守る」という性別役割分業の考え方は近年変化し、女性の自己実現の選択肢は広がってきた。一方で社会の制度や実態は追いついておらず、女性に負担が集中しているのが現状だ。職場のマタニティーハラスメント、待機児童問題など課題は依然として多い。

 加えて、女性は出産すると、社会からの期待もあり、母という一つのアイデンティティーに固定化されてしまいがちだ。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では、家庭のために自分を半分犠牲にするのは当然と考える妻の割合は、この18年間増加し続けている=グラフ参照。

 若者を取り巻く環境も変化している。雇用が流動的なため、収入が安定せず実家から独立しにくい。さらに日本は家族主義が強く、子どもの頼る先が家族に限られる。親は責任感から、子どもの人生からリスク要因を未然に取り除こうと必死になってしまう。

 25~34歳の若者の95%以上が実家を出て暮らすスウェーデンやフィンランドでは、公的な住宅支援が充実しており、若者が1人暮らしを始める際のハードルが低い。

 日本でも親が子離れでき、子が親離れできるための社会の仕組みが必要だ。

 

「自分の生き方 見直す好機」 NPO法人ペアレント・スキルアップ福岡理事長・佐藤由美さん

 米国発祥の子育てプログラム「アクティブ・ペアレンティング」の講師として講座を開いたり、精神科でカウンセラーを務めたりしている。

 子育ての目的は子どもの自立だ。卒親の時期はまちまちでも、親は子どもが幼いうちから「いずれ子育ては卒業する」という前提に立ち、子どもは別人格としてある程度の距離を保ちながら関わることが大切だ。

 子どもが失敗したり傷ついたりしないよう、親がなんでも先回りして用意し、過保護、過干渉になってしまいがちだ。「失敗するのも一つの権利」という見方もある。子どもに無理のない程度に挑戦させ、頑張りを認めたり、ねぎらったりしながら、本人に任せる範囲を少しずつ広げていこう。

 親が子どもに依存的になってしまう背景には、夫婦関係の不和があることも多い。卒親は、自分がどう生きたいのか見直す好機だ。これまで家族のために我慢してきた自分の好きなことや、人との付き合い方を見直そう。

 子育てが終わっても、親子の関係が終わるわけではない。自立した大人同士、話し合ったり相談に乗ったり、適度な心理的距離を取りながら良好な関係を築くのが理想だ。

 


=2018/10/26付 西日本新聞朝刊=