コウノトリが運ぶ夢 諫早支局長 山本 敦文

西日本新聞

 諫早湾干拓農地(長崎県諫早市)にこの秋、国の特別天然記念物のコウノトリが白い翼を広げて舞い降りた。両足にリングが付いている。日本野鳥の会によると兵庫県豊岡市で放鳥された証しだという。

 豊岡市のNPOで、放鳥後のモニタリングを続ける「コウノトリ湿地ネット」事務局に連絡すると、職員の弾んだ声が返ってきた。

 「その子は6月にここを巣立って、一時は岡山県倉敷市にいたんですよ。でも西日本豪雨の後に行方不明になっていて…。良かった。無事だったんですね」

 「赤ちゃんを運ぶ鳥」と親しまれているコウノトリだが、国内の野生鳥は乱獲などで1971年に絶滅している。豊岡市は、その最後の生息地だった。屋内施設による人工飼育も試みられたが失敗。85年に旧ソ連から贈られた幼鳥を市の飼育員が育てて数を増やし、2005年に最初の5羽が試験放鳥されている。

 現地を訪ねた。日本海側の但馬地方、人口約8万人の街は山に囲まれ、円山川がゆったりと中心を流れる。

 コウノトリの生息地は人々の集落に接する里山だ。松林に巣を作り、田んぼや河川敷で魚やザリガニなどを長いくちばしでついばむ。野生復帰に合わせ、市は「コウノトリもすめる」環境を整えた。

 農家に委託して休耕田に水を張るビオトープ水田や無農薬米栽培を広げたほか、圃場(ほじょう)整備中だった水田を買い取り人工湿地を整備。01年に現在の中貝宗治市長が就任してからは取り組みが加速し、市の農林水産部は「コウノトリ共生部」に組織再編された。

 国や県も協力し、円山川の河川敷を掘削して湿地に変えたり、水田と水路を結ぶ魚道を整備したりした。

 「水田を荒らす害鳥だ」という反発もあったが、円山川下流域は12年にラムサール条約の保全湿地になり、今年10月には上流域へとエリアを拡張。その記念イベントが今月10日にあり、中貝市長は「今ある環境の保全は市が開発を禁止すればできる。だが、失われた環境の再生には多くの市民の対話と共感が必要」と強調した。市はコウノトリと人の共生を目指し、エコツーリズムなどを推進する「環境経済戦略」も掲げる。

 湿地ネットによると、野生復帰を果たしたコウノトリは現在約150羽。その半数が古里の豊岡盆地を離れ、全国各地の空を舞っている。

 諫早湾では潮受け堤防閉め切りで希少生物の宝庫だった干潟などの環境が失われ、長引く訴訟で「対話」は途切れたままだ。コウノトリの目にこの土地は、どう映ったか。

=2018/11/24付 西日本新聞朝刊=