無戸籍者 柔軟な人権救済の方策を

 「無戸籍者」と呼ばれる人たちに今、ようやく対策の光が当たりつつある。親の事情で出生届が出されず、戸籍がないまま暮らす人たちのことを言う。

 無戸籍状態の解消に向けて先月、法務省や弁護士らでつくる研究会が発足した。今後、問題点を洗い出し、さまざまな解決策を検討していく。

 戸籍は国民としての生活の基本だ。それがなければ原則として住民票は作成されず、社会生活でさまざまな不利益を被る。パスポートを取得できず、義務教育を受けられない例もある。

 法務省の2014年以降の調査によれば、先月10日までに確認された無戸籍者は1994人に上る。このうち、戸籍を取得できて問題が解消されたのは1153人で、残る841人は戸籍がないままだ。

 一方で、無戸籍の人は1万人を超えるという民間団体の推計もある。まずは実態の把握を急ぐ必要がある。

 無戸籍者の8割近くは両親の離婚を巡り、母親が出生届を出さなかった事例という。「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子」「離婚後300日以内に生まれた子は婚姻中に妊娠したと推定する」という民法772条に起因する。明治時代から変わらない「嫡出推定」という規定だ。

 ある女性は夫の暴力から逃れて別居し、別の男性との間に女児をもうけた。民法の規定によれば、暴力を振るう夫が父親になるため、出生届を出さず、その後離婚が成立した。

 裁判所は女児について、母親と夫が離婚状態にあったことから「嫡出推定を受けない」と判断した。女児は30代になって戸籍取得を認められた。記者会見で「やっと国民になれた。堂々と生きたい」と話した。心の底から出た言葉に違いない。

 嫡出推定の規定は、扶養義務を負う父親を早期に確定させ、子どもの権利を守るのが目的だ。今年、大阪高裁が同様の判断を示すなど司法の場でも定着している。ところが、社会環境や家族観の変化とともに、この規定が結果として無戸籍を助長する一因となっている。

 戸籍取得は、裁判による親子関係の不存在確認などを経て初めて可能となる。法務省は昨年、裁判支援など対策を打ち出した。それでも法廷で訴えるとなれば、経済事情も含め尻込みする人もいよう。法改正を待たずとも、民法の弾力的な解釈や運用で改善できることもあろう。

 生まれてきた子どもには何の罪も責任もない。基本的人権に関わる深刻な問題である。戸籍のない人の救済策づくりは急務だ。同時に、子どもの視点に立った家族の在り方全体について議論を深める必要がある。

=2018/11/25付 西日本新聞朝刊=

PR

PR