映画で日韓橋渡し 「君の名は。」「となりのトトロ」「万引き家族」

西日本新聞

 ●字幕翻訳家 姜〓夏さん 「相互理解の教材に」

 日本のアニメ映画「君の名は。」(新海誠監督)は昨年、韓国でも記録的ヒットとなった。韓国語への字幕翻訳を担当した釜山市出身の姜〓夏(カンミナ)さん(42)は、日本映画230本の字幕を手掛けてきた経験の持ち主だ。映画を通して見た両国の違いや共通点、元徴用工訴訟判決など日韓が歴史問題でぎくしゃくする中で相互理解を深めるヒントを聞いた。 (釜山・丹村智子)

 -日本との関わりはいつから。

 日本語を学び始めたのは大学から。韓国語と似ていたからです。後から考えると、釜山で祖父母が日本家屋に住んでいたので、無意識のうちに日本に親しみを感じていたのかも知れません。日本統治時代に日本人が建てた木造2階建てで、畳の部屋や押し入れ、日本庭園もあり、そこで遊ぶのが好きでした。

 -翻訳する上で難しさややりがいを感じる部分は。

 目に見えない状況や感情を表現する言葉を訳すのは難しい。例えば日本語の「絆」と全く同じ意味の韓国語はない。また映画の中の「絆」が何を表現するのかは、内容や状況によって異なるので、近い意味の言葉を選ぶだけでなく、説明を補足することもあります。

 -情に厚いと言われる韓国人。「絆」に相当する言葉がないのは意外。

 「つながり」「連帯感」「情」といった言葉はありますが、「絆」が意味する関係性を表現する言葉はない。日本語にはこうした細やかな表現が多い。日ごろは素っ気ない様子の人が時に示す優しさや甘えた態度を「ツンデレ」と言ったりする。この「ツンデレ」は韓国にもそのまま取り入れられ、今や小学生でも意味を理解しています。

 -言葉の違いから、両国民のものの考え方の違いを感じることはあるか。

 日本人は相手がどう感じるかを意識し、韓国人は自分がどう判断するかを重視していると思う。例えば日本語の「おじゃまします」「ご迷惑をおかけします」といったあいさつは韓国人はめったに使わず、「よろしくお願いします」などの言い方が一般的だ。

 -共通する部分は。

 今の日本映画は若者の恋愛が題材の作品が多いが、恋に落ちる過程や恋人の関係性がよく似ている。また食べ物への強い関心も共通している。韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」が日本で受け入れられ、日本のドラマ「孤独のグルメ」は韓国でも人気です。

 -両国で互いの文化が浸透している一方で、政治的な問題が尾を引いている。

 韓国は被害を受けたという思いがベースにあり歴史に対してはすごく敏感。この点ではなかなか両国の考え方が近づかないが、人間的には非常に似ている部分が多いと思う。

 -元徴用工を巡る問題も再燃している。

 解決済みと思っている人と、過去のやり方は正しい解決法ではなかったと思っている人がいる。全員が納得する解決法は難しいでしょう。ただ歴史問題の隔たりには、互いの立場から書かれる歴史教科書や教育の影響があるのでは。

 -日本文化の橋渡し役を果たしてきた。

 私が大学に入った当初はまだ日本の映画や音楽が開放されておらず、岩井俊二監督の「Love Letter」や黒澤明監督の「羅生門」は海賊版で見ていました。開放間もない1990年代後半は、私の仕事を否定的に捉える人もいましたが、この間に文化的交流はかなり深まったと思います。

 -両国の相互理解に映画が果たす役割は。

 映画には、過去から現在につながるその国の社会や人間が描かれている。物語の内容以外にも、音楽や言葉、ファッションを知ることもできる。ドラマもそうですが、映画はより凝縮されており、お互いの国を理解する教材としてこれ以上のものはない。より多くの人に、多くの映画を見てもらいたい。

 ▼カン・ミナ 1976年、韓国・釜山市生まれ。ソウルの梨花女子大から交換留学生として津田塾大へ。在学中に韓国の映画専門誌の通信員として日本映画を取材し、今村昌平監督の「うなぎ」の字幕翻訳を手がけた。帰国後、ソウル在住。主な字幕翻訳作品は、宮崎駿監督の「となりのトトロ」「ハウルの動く城」「もののけ姫」、岩井俊二監督の「Love Letter」、北野武監督の「菊次郎の夏」、是枝裕和監督の「万引き家族」など。

 ※〓は全て「王へん」に「文」

=2018/11/26付 西日本新聞朝刊=

PR

国際 アクセスランキング

PR

注目のテーマ