日産の企業責任 司法取引の正当性を示せ

西日本新聞

 巨悪を眠らせるわけにはいかない。重大な犯罪は首謀者を割り出し、全容を解明しなければならない-。その突破口として「司法取引」は有用とされる半面、危うさもはらむ。捜査の過程が不透明で、冤罪(えんざい)を生みかねない性質を併せ持つからだ。

 検察当局と日産自動車には、その意味で疑念が生じないよう事実関係を極力明らかにする真摯(しんし)な姿勢を求めたい。

 東京地検特捜部が日産の会長だったカルロス・ゴーン容疑者らを逮捕した、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)事件のことだ。

 巨額に上る役員報酬の過少記載に加え、会社資金の支出や運用を巡る不正があったとして、日産はゴーン容疑者らの解任手続きを早々に進めた。

 その一方で、日産と連合を組むルノーや、その後ろ盾であるフランス政府は、捜査の成り行きを慎重に見極めようとする姿勢が目立っている。今回の摘発は、日産幹部と検察側の司法取引が端緒とされ、フランスの側には事実関係が判然としないことへの不信感もうかがえる。

 実際、東京地検と日産は、逮捕容疑以外の不正疑惑の詳細について公表を避けている。司法取引の具体的な中身も現時点では明らかにしていない。

 司法取引は「証拠収集等の協力及び訴追に関する合意」制度として今年6月に運用が始まった。犯罪の共犯容疑者らが捜査に全面協力する見返りとして、検察官は彼らの刑事処分を減免する。それによって大掛かりな不正などを摘発する試みだ。

 問題は「捜査への協力」で必ずしも事実に即した供述や証拠が得られるとは限らない点だ。制度が悪用されて無実の人が訴追される懸念があるほか、刑事処分の軽減が犯罪の性質と比して妥当かどうかも問われる。

 最高検はその点を踏まえ、運用開始に当たって、国民の理解が得られるよう慎重な捜査を促す通達を出している。

 今回の事件では、日産の社内調査でさまざまな不正疑惑があぶり出され、検察側に大量の証拠類が提出されたとみられる。ただし、日産が不正の全責任を特定の人物に押し付けたり、ルノーとの連合の主導権を握ったりなど経営上の思惑が先行した司法取引であれば、摘発の正当性に疑義が生じる恐れもある。

 仮に逮捕容疑や一連の不正疑惑が事実であったとしても、それらがなぜまかり通ったのか。企業統治の不全を招いた原因を詳しく究明し、それらをつまびらかにすることも重要だ。

 司法取引によって日産幹部らの罪状が軽くなるとしても、企業としての社会的な責任が帳消しになるわけではない。

=2018/11/28付 西日本新聞朝刊=

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