吉本新喜劇の「ボケ」と「回し」 役割分担で生む“鉄板”の笑い

西日本新聞 木村 貴之

 福岡での放送時間帯は深夜だが、たまにチャンネルが合うとつい見入ってしまうテレビ番組がある。吉本新喜劇を収録した「よしもと新喜劇」。コテコテの大阪弁が飛び交う芝居に、笑いが絶え間なく織り込まれたドタバタ劇だ。その笑いは実にシンプルで、中にはワンパターンと感じるものもあるが、妙に笑いのツボを刺激される。これって一体? 秘密を探りに今秋、吉本新喜劇の本場・大阪へ足を伸ばしてみた。

 向かったのは、大阪市中央区の演芸専門劇場「なんばグランド花月」(略称・NGK、858席)。ここで新喜劇の本公演が年中無休で行われている。吉本新喜劇は吉本興業の芸人らでつくる劇団の名称で、かつ舞台で演じられる喜劇を示す。本公演は吉本芸人による漫才や落語とセットで平日2回、土日祝日なら3〜4回。新喜劇は毎週火曜に入れ替わり、翌週月曜まで計十数回が上演される。

 この日、前半の漫才・落語にはメッセンジャーやトータルテンボス、笑い飯、テンダラー、宮川大助・花子、中田カウス・ボタン…と、テレビでおなじみの中堅や師匠格の芸人らが次々に登場した。それぞれ持ち時間は数分間。コンビ活動などに触れるアドリブで冒頭から笑いを誘うと、しゃべくり漫才やコント漫才など得意なスタイルと独特の世界観で客をぐいぐい引き込み、約90分間、会場を爆笑の渦に包んだ。

 そして後半の新喜劇が始まった。最近はお笑い番組でもよく見掛ける「すっちー」(本名・須知裕雅)を座長に、ベテラン組の池乃めだかや浅香あき恵、成長株の清水けんじや吉田裕(ゆたか)など約20人が出演した芝居で、演目は「すち子の、チャンネルはそのまま!」。架空のテレビ局を舞台に、視聴率低迷で打ち切り危機にある情報番組の関係者らが巻き返しを狙うという物語だ。すち子は、すっちーが「大阪のおばちゃん」をイメージして女装し、おかっぱ頭がトレードマークのキャラクター。番組ディレクター役で登場し、話の流れをぶち壊すほど破天荒に暴れまくってドタバタ劇を盛り上げた。

 実は今回のお目当てはすっちーの笑いだった。物語の途中、吉田と繰り広げる定番ギャグ「乳首ドリル」。すち子が柔らかい棒で吉田の体のあちこちを叩き、半裸になった胸板をそっと突いたり突かなかったりすると、吉田が「ドリルすんのかい、せんのかい」と大げさに反応する。尺長だが、流れもオチも見えているギャグ。なのに笑ってしまう。「M―1グランプリ」などの賞レースで斬新さが求められる漫才とは明らかに違う笑い。生の舞台に触れると謎が解ける。

 新喜劇は45分間の芝居。そこに織り込まれる笑いは物語に溶け込み、同じギャグでも表情が変わるわけだ。それをコントロールするのが座長。脚本の流れや配役などを決めて全体を取り仕切る監督的な存在といえる。すっちーは舞台上ですち子を演じる一方、終始、座員の演技や客の反応に目を光らせる。そこには徹底した役割分担も垣間見える。

 吉本興業によると、新喜劇の出演者の役割は「回し」と「ボケ」に大別される。回しは物語を進める役回りで、すっちーはツッコミと演技力に定評のある清水を重用しているという。ボケは、物語に絡んで笑いを取る「ボケ1」と、物語から脱線して笑わせる「ボケ2」に分かれ、ベテラン組は主にボケ1、乳首ドリルは典型的な「ボケ2」。すっちーはボケの立ち位置で仕切り、清水をボケに引っ張り込んだり、守備範囲の広い吉田の役割を効果的に切り替えたりしているそうだ。

 こうして作り上げられるのが吉本新喜劇。座長は他に内場勝則、辻本茂雄、小薮千豊(こやぶかずとよ)、川畑泰史、酒井藍の計6人で、座員は全100人余に上る。顔触れ多彩な座長の演出で磨かれる「百人百色」の笑いはまさに“鉄板”。これで飽きるはずがない。

 NGKはまさに「笑いの殿堂」だ。大阪観光の名物スポットとして既に定着している。福岡から大阪まで空路なら約1時間、陸路は新幹線なら約2時間半。吉本新喜劇は福岡の深夜放送でも十分楽しめるけど、本場の笑いが恋しくなったら、また足を伸ばそう。(敬称略)

 博多弁飛び交う「九州新喜劇」も誕生

 舞台で繰り広げる吉本の笑いは九州にもある。吉本新喜劇・九州版として今年誕生した「九州新喜劇」。出演するのはもちろん福岡吉本の芸人らだ。大阪と違って専用劇場を持たず、一般施設で出張公演を行うスタイル。2月の旗揚げ公演は福岡市・百道の「ももちパレス」で、8月の夏公演は同市・天神の「西鉄ホール」でそれぞれ開き、ともに満員御礼の大入りだった。

 座長は福岡吉本で最年長芸人の寿一実(62)。もとは役者志望で、劇団を経て入団した大阪新喜劇では副座長として活躍したことがある。木村進(福岡市出身)や間寛平が座長を務めた1970年代。当時からはげた頭をいじられる役回りは多かったが、高い演技力で「回し」を任されていたそうだ。寿をはじめ、コンバット満やケン坊田中、高田課長らベテラン組を中心に地元芸人ら20人以上が集結。両親が大分県出身で九州とゆかりが深く、大阪新喜劇で座長経験がある石田靖が毎回ゲスト出演し、福岡の舞台を盛り上げる。

 吉本興業によると、九州新喜劇の舞台づくりは「東京仕込み」。脚本・演出は旗揚げ、夏公演ともに元吉本芸人の俳優浦井崇が原案を作り、旗揚げは東京の吉本常設劇場付きの作家が、夏は東京で活躍している漫才コンビ「パンクブーブー」の佐藤哲夫が手掛けた。

 夏公演の演目「福岡で映画をとっとーと?」は、とある旅館に住民やメディア関係者、海外の大物映画監督らが続々と訪れて大騒ぎする物語。飛び交うのは博多弁。「乳首ドリル」のような定番ギャグはないが、大阪新喜劇の「ボケ」「回し」のように機能的に盛り込まれた笑い、地元芸人から引き出される地の面白さ―が存分に楽しめ、なかなか圧巻だった。

 公演は年2〜3回のペースで開催され、来年1月13日、福岡市・天神のエルガーラホールで冬公演を予定。福岡吉本は「東京・大阪の人気芸人や舞台から刺激を受けながらすくすく育つ九州新喜劇。今後も温かく見守ってほしい」と話している。(敬称略)

=2018/11/28 西日本新聞=

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