英のEU離脱合意 無秩序回避に全力挙げよ

西日本新聞

 これでヤマを越えたのか。いや、英国のメイ首相にとって、最大の難関はここからだ。

 英国の欧州連合(EU)離脱を巡り、EU特別首脳会議が今週初め、英国の離脱条件を定めた協定と政治宣言を決定した。英国とEUがようやく離脱交渉の正式合意にこぎつけた。

 英国では、EUの「移動の自由」の原則によって国内に移民が流入したり、EUの厳しい域内規則に従わされたりすることに対して国民の不満が募り、2016年の国民投票でEU離脱方針を決めた。その後、英国とEUは19年3月を離脱期限として円滑な離脱のための協議を続けてきたが、難航していた。

 合意には「激変緩和措置として20年末までを移行期間とする」「移行期間中は現在の英EU関係を維持する」「英国はEUに未払い分担金(手切れ金)を払う」などが盛り込まれた。

 ただ、最大の論点となったアイルランドと英領北アイルランドの国境問題では、自由往来できる現状のまま税関検査を実施する妙案が見つからず、移行期間中に協議を継続することになった。期間内に解決しなければ移行期間をさらに延長するか、英国がEU関税同盟に残るかを選択する。離脱後に英国とEUがどういう形の通商関係を目指すのかも曖昧な表記となった。

 つまり今回の合意は、時間切れを目の前にして難題を先送りし、移行期間の確保を最優先する内容と言える。

 もし英国が無協定のままEUから離脱すれば、人の移動と物の流れに突然、支障が出る。税関手続き復活や金融サービスのルール変更で、経済と社会生活に大混乱が生じる。その悪影響は世界経済に及ぶと予想される。こうした「無秩序離脱」を回避するため、緊急避難的な合意になったのはやむを得ない。

 しかし、これでも安心できる状況ではない。この合意が英国議会で承認されるか、全くめどが立っていないからだ。議会承認を得られなければ合意は白紙に戻り、無秩序離脱という最悪のシナリオにまた一歩近づく。

 英国議会の離脱強硬派は、今回の合意に対し「事実上、EUのルールに支配され続ける」と強く反発している。一方でEU残留派も「もともと離脱する方針が間違いなのだ」と訴える。離脱、残留の双方から反対され、合意承認の多数派形成は容易ではなさそうだ。

 この問題では、離脱派が事実に基づかない主張で反EU感情をあおり、国論が分断されたまま国民投票が実施された経緯がある。英国の議員も国民も冷静さを取り戻し、最悪の事態を回避するため、現実を見据えた選択をしてほしい。

=2018/12/01付 西日本新聞朝刊=

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