認知症の母を施設に預けることにしたその女性は、前夜、切なくて布団をかぶって泣いたという…

西日本新聞

 認知症の母を施設に預けることにしたその女性は、前夜、切なくて布団をかぶって泣いたという。入所後、施設の職員に母が発した言葉を聞かされる。「娘が帰ってくるから明かりは消さないで」-。施設からの帰り道でまた泣いた

▼女性の名は赤木春恵さん。先日、94歳で亡くなった。「3年B組金八先生」の女性校長役、「渡る世間は鬼ばかり」のしゅうとめ役など、テレビドラマでの当たり役が多い女優だった

▼出身は旧満州(中国東北部)。1940年に松竹に入り、慰問団の一員として再び満州へ。現地で終戦を迎え、1年2カ月後に引き揚げた。乳がんで左乳房の全摘出もした。起伏に富んだ人生経験が、彼女を存在感あふれる名脇役にしたのだろう

▼最初で最後の主演映画は、認知症の母と息子のユーモラスで少し切ない日々を描いた「ペコロスの母に会いに行く」(2013年)。88歳と175日。「世界最高齢での映画初主演女優」としてギネス世界記録に認定された

▼原作者は長崎市の岡野雄一さん。こちらも63歳で日本漫画家協会賞優秀賞に輝いた「遅咲き」だ。「ロケで見た車椅子に座る姿が、僕が漫画に描く母にそっくりで、役作りの姿勢に驚きました」と振り返る

▼岡野さんの母は認知症の幻想の中で夫と再会し「ボケるのも悪かことばかりじゃなか」と語る。赤木さんも最愛の母と、天国でそんな会話を交わしているかもしれない。

=2018/12/02付 西日本新聞朝刊=

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