米中貿易戦争 協議と対話の場維持せよ

西日本新聞

 貿易戦争が激化する最悪の事態は避けられた。しかし、それはあくまで「一時休戦」で、火種はまだくすぶったままだ。

 アルゼンチンで開催されていた20カ国・地域(G20)首脳会合終了後に、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席の米中首脳会談が行われ、米国が対中制裁関税の引き上げを一時、見送ることで合意した。

 具体的には、米国が来年1月の実施を予告していた、中国製品2千億ドル(約23兆円)分への関税率を今の10%から25%に引き上げる制裁措置について、発動を90日間見送るという。

 その間に、両国は知的財産権侵害や非関税障壁など中国の貿易慣行に関する協議を行い、合意できなければ米国は追加関税を実施するとしている。

 米中の貿易戦争は、米国が今夏、計500億ドル分の中国製品に制裁関税を発動し、中国が報復関税で対抗して始まった。9月には米国が制裁関税品目を2千億ドル分追加し、中国も報復措置を取った。今回の首脳会談が不調に終われば、米国は2千億ドル分の関税率を引き上げ、残りすべての中国からの輸入品(2670億ドル分)にも追加関税を課すと脅しを掛けていた。

 米中という経済大国の対立は両国の国内経済だけでなく、世界経済にも悪影響を及ぼし始めている。90日間の「一時休戦」は、協議が調わなければ米国が追加関税に踏み切るという身勝手な話ではあっても、当面の不毛な制裁合戦の激化を避けたことは評価したい。

 ただ、より本質的な問題は、米中関係が安全保障面でも覇権を争う「新冷戦」と呼ばれる局面にあることだ。米国内では党派を超えて、中国が不正に得た知的財産を基に先端技術や軍事の面で覇権を奪おうとしているといった懸念が広がっている。それが貿易分野での対立緩和を難しくしてもいる。こうした摩擦の根っこに分け入る対立緩和策の模索が必要だ。

 さらなる懸念は多国間協調体制の揺らぎだ。今回のG20では米国の反対で、首脳宣言に必ず盛り込まれてきた「保護主義と闘う」の文言が初めて削除された。先月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でも、米中の対立で首脳宣言を初めて断念するなど、自由貿易を支えてきた協調の理念は危機にある。

 世界経済の秩序や枠組みが今、変革期にあるとの見方もできよう。だが、パワーバランスがどう変容しようと、国際的なルールに基づく自由貿易は世界の安定や繁栄の礎だ。

 米中は大国としての責任がある。対立の緩和に向け、90日に限定しない協議と対話の場を維持しなくてはならない。

=2018/12/04付 西日本新聞朝刊=

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