改憲論議停滞 民意の後押しがなければ

西日本新聞

 「憲法審査会の審議に応じない野党は職場放棄だ」「(改憲を度々行っている)世界から見れば護憲は思考停止だ」-。

 自民党の下村博文・憲法改正推進本部長がこんな独善的で乱暴な発言をするようでは、野党が反発し、国民の理解が得られないのも当然だろう。

 臨時国会は、焦点だった改憲に向けた憲法審査会での実質的な議論が、一度も行われないまま閉幕した。自民党は改憲案提出の先送りを余儀なくされた。

 安倍晋三首相は9月の自民党総裁選に先立ち、次期国会での改憲案提出に意欲を示し、この臨時国会では下村氏ら側近を国会運営の要職に据え、審議を加速させるシフトを敷いた。

 総裁連続3選で勢いを得た首相には、来年の参院選前に改憲の発議にこぎつけたい思惑もあったろう。それが裏目に出た。

 9条への自衛隊明記を軸とした「改憲4項目」を掲げて先を急ぐ自民に対し、野党は警戒感を強め、憲法審の開催に慎重な姿勢を貫いた。それに業を煮やした下村氏の「職場放棄」発言だったが、思慮を欠いていた。

 憲法では改憲の発議は国会議員が担うとされている。故に首相らは「発議は国会の責務」と強調する。しかし憲法は元来、権力を縛るものであり、天皇をはじめ国会議員や公務員らに憲法擁護の義務を課している。

 それに照らせば、改憲論の前に、今の国政に憲法の精神が十分に生かされているのかなど、現状をつぶさに検証する作業が求められる。野党側が下村発言に反発するのは理解できる。

 下村氏は8日、国会審議の停滞を巡り「護憲は思考停止。現状維持で何も変えようとしない」とも語った。そう決め付ける「改憲ありき」の姿勢こそが思考停止ではないのか。

 停滞の背景には、来春の統一地方選を控え、連立を組む公明党が改憲に慎重なこともある。臨時国会では外国人労働者受け入れ拡大の法改正の審議で、新制度のあいまいさが露呈し、守勢に回ったことも影響した。

 そもそも民意の後押しがあるのか、冷静に見つめるべきだ。世論調査では改憲の賛否は拮抗(きっこう)しているが、国民が望む政策の上位には景気や福祉対策などが並び、改憲は下位にとどまる。

 現在、衆院と同じく改憲に前向きな党派の議席が3分の2を占める参院の勢力図は、来夏の参院選で変わる可能性がある。そのため、来年の通常国会でも再び改憲論議が焦点になろう。

 首相は10日の記者会見で、2020年の改正憲法施行を目指す考えを重ねて示し「幅広い合意」の必要性を強調した。であれば「数の力」におごらず、真摯(しんし)な議論を積み重ねるべきだ。

=2018/12/11付 西日本新聞朝刊=

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