模索する専門性(5)農業高 都市型を目指して

農家の子は数人のみ

 今夏、甲子園を沸かせた「金足農旋風」。全国の農業高校が一躍脚光を浴びる中、福岡農業高(福岡県太宰府市)では学校を挙げたプロジェクトが進んでいた。「福農HAPPY WEDDING」。学校を結婚式場に見立て、ウエディングドレスにケーキ、引き出物など全て生徒手作りによる初めてのイベントだ。

 創立140周年の記念行事。「自分たちの学んだことが人の生活、幸せにつながっていることを実感してほしかった」と、担当した生活デザイン科の本多真由美教諭は話す。

 全学科が関わった。ドレスやケーキは生活デザイン科、ブーケは都市園芸科、引き出物の「梅サイダー」や梅ジャムは食品科学科、そして環境活用科は、校内で飼育する鶏の卵などケーキの材料や新郎新婦の親に贈る米を提供した。

 企画は、現在の3年生が2年生だった2月にスタート。市報での募集に、たまたま卒業生のカップルが手を挙げた。桜が満開の校内での前撮りをはじめ、専門家を招いた勉強会、企画会議など生徒たちは「課題研究」の授業を活用するなどして準備を進めた。

 11月2日、生徒によるサプライズの踊りも加わった本番で、新郎新婦は真心のこもった後輩たちの演出に満面の笑みで感謝した。生徒の1人は「2人の幸せそうな姿に安心した。それぞれの学科が一つにまとまるとすごいことができると感じた」と語った。

学科再編で女子生徒増

 福岡市・天神まで車で30~40分の福岡都市圏に、水田や果樹園などを備えた約44万平方メートルの敷地を有する福農。校内で目につくのが女子生徒の姿だ。その割合は64・8%に上る。

 「学科再編などを通じて従来の農業高校の在り方が変わったことが大きい」と薦田源一教頭。ファッションや栄養などを学ぶ生活デザイン科はほぼ女子で、近年は都市園芸科など農業系学科でも男子を上回る傾向にある。

 農業従事者が激減し、農業高校には「後継者育成」にとどまらない幅広い役割が期待されるようになった。学べる分野は、フラワーアレンジメントやバイオテクノロジーなど多彩になり、全国的にも女子生徒数は飛躍的に伸びてきている。

 今月5日、太宰府市役所に食品科学科梅研究班の生徒と企業関係者が顔をそろえた。2013年度からカルビー(東京)と共同開発している「ポテトチップス合格する梅(ばい)シリーズ」の新商品発表会だ。地元産の梅を使って、企画、マーケティング、収穫から加工、商品化まで一貫して取り組む。こうした商品開発に携わりたいと同科を志願する中学生は年々増えている。

 今年の研究班は女子8人と男子2人。薦田教頭は「最近の生徒はきちんと目的を持って入学している。学校にはその期待を裏切らない努力とチーム力、総合力が問われている」と話す。

変化に総合力で応える

 校内にあるグリーンライフ農場で11月下旬、都市園芸科の3年生と地域住民が収穫を間近に控えた冬野菜の話で盛り上がっていた。

 生徒たちが指導員役となり、住民と農作物を育てる交流実習の最終日。畑には白菜、キャベツ、大根、ブロッコリーなど多彩な作物が並ぶ。家庭菜園や小規模な土地でも栽培が可能なものばかりだ。

 福農の全校生徒のうち専業農家の子弟はわずか数人という。それでも、基本である「農業」の学びは続く。重視しているのが都市部での農業とその活用法。そのためにも地域交流は欠かせない。「生徒は身に付けた技術を地域に伝え、交流を通じてさまざまな価値観を得る。グループで取り組むことで役割分担や協力することを学ぶことも狙いの一つ」と下川雄一郎校長は強調する。

 10年ほど前からは、始業前の朝課外授業に取り組む。農業高校では珍しいが卒業生の6割が進学する現状と、就職先でも基礎学力で困らないようにするためだ。選択制となった今も半数が参加しているという。大学進学を目指している都市園芸科3年の秋好未羽さん(18)は「福農で学び、さらに知りたいことが増えた」と笑顔で話した。

 変化に応じて学びの選択肢を広げる同校は農業高校のイメージを、いい意味で覆す。その模索に生徒も応えていた。

=2018/12/16付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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