障害者、高齢の女性、ろう者… 21~23日 福岡で舞台公演 動きづらい体に 演じるエネルギー

西日本新聞

「走れ!メロス。」公演に向け、通し稽古をする出演者たち。身体に障害のある人やろう者、高齢女性などさまざまだ=3日、福岡市南区 拡大

「走れ!メロス。」公演に向け、通し稽古をする出演者たち。身体に障害のある人やろう者、高齢女性などさまざまだ=3日、福岡市南区

出演者に稽古をつける倉品淳子さん=3日、福岡市南区

 ●多様だから 広がる可能性

 身体に障害がある人、ろう者、そして還暦を過ぎた女性たちが、演劇のプロによる指導を受け、公演する「すっごい演劇アートプロジェクト」。企画・運営する福岡市の認定NPO法人「ニコちゃんの会」などの新作「走れ!メロス。」が21~23日、同市南区大橋のゆめアール大橋で上演される。「動きづらい体に力を込める表現こそ、目を引きつける『武器』になる」と、演出を務める俳優で演出家の倉品淳子さん(51)=同市出身。師走の夜、本番目前の稽古場をのぞいた。

 ▼舞台だから輝く

 電動車椅子のメンバーの肩越しに正面から手を掛け、年配の女性がゆっくりと肘掛けに上る。別のシーンでは、車椅子の男性がのけぞりながらせりふを叫び、ろう者の女性と身ぶり手ぶりで掛け合っていた。「2人とも面白くない。めりはりがない」。倉品さんの声に、場が一瞬、張り詰める。

 多様な人たちが、思い通りには動かない自らの体と真剣に向き合いながら、それぞれ表現を生み出し、一つの舞台を作り上げていく。「あくまで、演劇の可能性を広げたくてやっています」(倉品さん)

 同会は「重い病気や障害があっても豊かな人生を」をモットーにさまざまな事業を手掛けている。アートプロジェクトは2007年に始めた。かつて倉品さんの演劇仲間で、代表理事の森山淳子さん(53)が「障害のある人とお芝居をやろう」と発案したのがきっかけ。重い障害のある娘を亡くした経験がある森山さんは「体が不自由なために普段、抑えているエネルギーや感情こそ、舞台で醸し出すものがあり、きらきら輝くのでは」と考えた。

 「最初は自信がなかった」倉品さんだが、まずは60歳以上の女性たちと、徐々に障害のある人など出演者の「枠」を広げ、今回は既に5作目だ。前作は15~16年、福岡だけでなく横浜、大阪での公演も実現した。

 ▼発話難しくても

 舞台に上がるのは、福岡県を中心に、大阪在住者も含め約20人。過去4作とも、事前に俳優養成とオーディションを兼ねる「俳優講座」を開催し、出演者を募る。

 例えば、脳性まひで車椅子を使っていたものの、訓練して歩けるようになった森裕生さん(36)。真っすぐにはならない手足を「ウン、ウン」と動かし、一瞬立ち上がる姿が「鎌首を立てる姿に見えた」(倉品さん)ことから、前作でヘビの役を射止めた。今回も主役の一人を演じる。

 同じく前作に続いて出演、主役を演じる里村歩さん(22)は歩行や発話に障害があり、子どものころから車椅子で、文字盤も手放せない。せりふでは伝えられず、発声と、筋肉が緊張してしばしば伸び切ってしまう腕とこぶしを振り上げて表現する。今作は車椅子の新たな出演者たちも仲間入り。「良い声を持っていて、僕もあんなにしゃべれたら」と思う半面、「ライバルに負けないように演じている」。気持ちが入りすぎて、腕の付け根の筋肉がつることもある。

 ▼許容する社会に

 原作の脚本に、出演者が発案した寸劇や歌、ダンスなどを盛り込んでいく手法が倉品さんの流儀。今回は太宰治の小説「走れメロス」を題材に、本番直前まで試行錯誤を続ける。出演者の自主性を重んじるのは、多様性のある人材から「いずれ演劇のリーダーを育てたい」とも願うからだ。

 もう一つの工夫は、物語の解釈。原作では「暴君だった王が、メロスとその親友の信頼の強さに態度を改め、民もそんな王を歓迎する」という「大団円」だが「人と人はそんなに簡単に分かり合えないもの」と倉品さん。ただ、立場や考えの違う人同士の“壁”は壊れにくくても、一方で人はつながり続けなければ、生きていけない-。観客一人一人の心も揺さぶるような「仕掛け」も、エンディングに盛り込むつもりだ。

 多様な人たちが創作するこうした演劇作品が、結果的に「誰をも許容し、誰もが生きやすい社会」に変わっていく“種”になっていくのかもしれない。

   ◇   ◇

 会場は西鉄大橋駅(同市南区)から徒歩1分の「ゆめアール大橋・大練習室」。21日午後7時、22日午後3時、23日午後3時に開演。チケットは全日完売しており、当日券(全席自由2500円)のみ、若干用意する。問い合わせは=092(863)5903▽メール=art@nicochan.jp。

=2018/12/20付 西日本新聞朝刊=

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