「松橋」無罪へ 証拠の全面開示を進めよ

西日本新聞

 熊本県の松橋(まつばせ)事件で服役した宮田浩喜さん(85)について、確定した殺人罪の再審無罪が確実となった。

 検察側がきのう、有罪の立証を断念すると表明した。最高裁で確定した再審開始に向け、裁判所、弁護団と開いた協議で明らかにした。

 遅きに失したとはいえ、とかく無謬(むびゅう)性に固執するとされる検察の姿勢を、あえて「英断」として評価したい。その上で、無実を訴えた宮田さんの人権を踏みにじってきた国家権力の罪の重さを問いたい。

 刑事裁判の大原則は「疑わしきは被告人の利益に」という理念であることを、改めて確認する必要がある。審理では検察側に立証責任が負わされる。

 再審請求審では、宮田さんが凶器の小刀に巻いて使った後に「燃やした」としていたシャツの布片が現存していたことが、再審決定の大きな柱となった。弁護側の請求で熊本地検が開示した証拠約100点の中から見つかった。

 逮捕当初、犯行を認めた宮田さんの自白について、福岡高裁は「犯人ではないのに取り調べで追い詰められた可能性は十分にある」とも踏み込んだ。

 自白偏重の捜査は冤罪(えんざい)の温床にもなる。検察は有罪立証のため「ベスト・エビデンス」(最良証拠)という考えに基づき証拠を示す。証拠を絞ることで訴訟が円滑に進む利点があるからだ。一方で、検察が描いたストーリーに合わない証拠は伏せられる危険性もはらんでいる。

 そうした反省から、裁判員裁判などでは、被告側の求める証拠が一定の範囲内で開示されるようになった。松橋事件が教訓として突き付けているのは、もう一歩進めた全面開示の原則だろう。証拠は公共の財産であることを忘れてはならない。

 検察は最高検を頂点にした巨大組織である。起訴事件の有罪率は99%とされる。その自負からか、かつて大阪地検特捜部は証拠改ざん事件を引き起こし、国民の信用を失墜させた。

 冤罪の防止は、捜査当局だけではなく司法界全体の切実な課題であるはずだ。冤罪事件が起きれば、真犯人は自由の身のまま再犯に走る恐れさえある。社会正義に著しく反する。

 松橋事件は再審制度の在り方も問うている。宮田さんの有罪確定から既に30年近くが経過している。再審請求審で地裁、高裁が開始を決めても検察が抗告し最高裁に判断が委ねられた。

 再審開始の決定が出たら速やかに再審に移る原則の構築を改めて提案したい。有罪か無罪かは再審の場で決めることだ。審理を指揮する裁判所の姿勢が問われることは言うまでもない。

=2018/12/21付 西日本新聞朝刊=

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