非軍事外交への可能性 南野森氏

西日本新聞

九州大教授南野森氏 拡大

九州大教授南野森氏

◆平和国家コスタリカ

 1948年に軍隊廃止を宣言し、翌年それを明記した憲法を制定した中米の小国、コスタリカ。米国人監督がその平和国家としての歩みを歴代大統領らの証言や記録映像でたどるドキュメンタリー「コスタリカの奇跡」(2016年)を見た。「憲法改正論議の参考にならないか」と知人に鑑賞を勧められたからだ。

 コスタリカと日本は国の規模、歴史、置かれた国際状況が違う。常備軍はないものの武装警察が存在し、必要があれば軍隊の設置も可能とするコスタリカの憲法は、日本国憲法の9条とは似て非なる部分も多い。しかし、外交や国際法に基づき紛争解決を図ろうとするコスタリカの政治は、日本も参考にできると思う。

 80年代、コスタリカの隣国ニカラグア内戦に介入したレーガン大統領時代の米国から、国内に基地設置と参戦を求められた当時のルイス・アルベルト・モンヘ大統領は、中立宣言を出し欧州各国の首脳を訪ね、支持を求めた。次のオスカル・アリアス・サンチェス大統領も、サッチャー英国首相からローマ法王まで欧州のほぼ全首脳を訪問。自国の立場を説明し支持を得て、軍事路線のレーガン大統領の圧力を退け、中米和平へつなげていく。

 「コスタリカの奇跡」は、こうした平和外交や、国際司法裁判所への提訴による国境紛争の解決などを紹介しており、対米国一辺倒になりがちな日本外交の在り方に示唆するものがある。日米安保条約で守ってもらっている以上、米国の要求を丸のみせざるを得ないという思考停止、あるいは“催眠術”に掛かっていないだろうか。

 日本国憲法は前文で「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とうたう。安倍首相はそれを軽蔑しているようだが、コスタリカはまさに前文通りの外交を地でいく。周りに軍事的な脅威があるアジアの中で、必ずしも軍事力に頼らないで、日本がどう戦略的に平和共存を求めていくのか、考えさせられる。

 「大国の軍事侵攻に小国の軍事力は無力だ。むだな軍事費にお金を使わず、教育や社会保障に振り向ける」という政治は、思想的背景は違うとしても「軽武装・経済振興」という側面では戦後日本もそれなりにやってきた。しかし、ここ数年、北朝鮮情勢や中国との境界紛争を背景に日本の防衛費は増大の一途。5兆円を超えて「GNP1%枠」の頃の抑制意識は薄らいだ。防衛費増大で割を食っているのはどこか。「兵士の数だけ学校の先生を」といったコスタリカの発想は参考になると思う。

 総額2500億円以上という地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を2基も買うと突然、米国と約束する。それは本当に国益に資するのか。映画の中で語られていたように、突出した武器輸出国である米国は、世界中に武力紛争が存在していないと国を維持できないかのような現実がある。トランプ大統領は国内向けに「日本は米国から大量の武器を買うことになった」と喜んで言う。戦争でもうける国際政治に、平和憲法を持つ日本がどう振る舞うべきなのか、考えるきっかけにもなる。

 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認も、海外への自衛隊の展開も、武器購入も米国の圧力から踏み切ったことではないか。そうした圧力をはねのけるという選択肢がある、とコスタリカの例を見ていて思う。特に国会議員や官僚に見てほしい映画だ。

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 南野 森(みなみの・しげる)九州大教授(憲法) 京都市生まれ。東京大学法学部卒業、同大学院博士課程単位取得退学。2014年から九州大教授。元AKB48の内山奈月さんへの講義録「憲法主義」が話題に。

=2018/12/23付 西日本新聞朝刊=

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