模索する専門性(6)総合型 基礎学力を重視

西日本新聞

生徒の基礎学力の定着に向けて改善が進む授業=嘉穂総合高 拡大

生徒の基礎学力の定着に向けて改善が進む授業=嘉穂総合高

50分の「座学に息切れ」

 生徒たちは、普通の高校なら「授業」と言うであろう教室での教科学習を「座学」と呼んでいる。頭と体を働かせる実習授業に比べ、どこか一方的で、面白みに欠けると感じているのかもしれない。

 11月、福岡県桂川町の県立嘉穂総合高。普通科総合コース2年の教室で数学の授業が行われていた。テーマは指数計算。「50分間、集中力の維持が難しい生徒の関心をいかに引くか、常に工夫の必要性を感じている」。数学科の佐々木修一郎教諭(27)は言う。

 授業の冒頭で佐々木教諭はA4用紙を全員に配って8回折りたたむよう指示した。「楽勝」と勇んで臨む生徒たち。そこで紙の厚さを0・1ミリとして30~40回折ったら何センチになるか-。頭をひねりながら乗り気だった生徒たちだが、終盤になると、やはり一部は雑談をしたり、机に突っ伏したりと息切れが見られた。

 国語を担当する森高亜弓教諭(34)も授業での工夫を試みる。縦書きのワークシートを自作。授業中も、おしゃべりしたいという生徒たちの願望を逆手に取り、グループで協力して意見や感想を書くアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)を進める。

 「国語のノートを横書きする子もいて違和感があった。それでも、書くことだけに満足しているようでは学びにならない」。本年度から全校で本腰を入れる授業改善へあくまで前向きだ。

教員の意識改革で授業工夫

 嘉穂総合高は普通科総合コースと農業食品、工業、情報科のある総合型高校。近隣の山田高、嘉穂工業高、嘉穂中央高を統合して2005年に開校した。

 それから10年以上。卒業生の6割が就職を希望する中、資格取得の数と就職率の高さは目を引く。昨年度の卒業生が3年間で取得した資格は食品衛生管理者、ボイラー取扱者、簿記検定など1人平均3・5の計555個。就職決定率は100%だった。本年度も9月末時点で希望者1人当たり約9件の求人があるという。

 「各学科の専門性を生かした教育を充実させてきたことで実績は上がっている。ただ社会のニーズとの『ずれ』が気になり始めた」。真海誠司校長は言う。

 近年の売り手市場は就職希望の生徒に追い風となっている。しかし、卒業生の働きぶりや定着度を知る企業関係者からは「資格取得は頑張った証しとして評価するが、人間関係をきちんと築けて基礎学力の高い若者が欲しい」といった声が届くようになった。

 裏返せば基礎学力、社会性の低さが目立つということ。同校では毎年実施する学力テストや学習習慣などを問うアンケートを通じて、生徒たちの多くが期待する学力には達しておらず、自力で起きて登校できないといった生活面の課題も浮き彫りになっていた。それでも、好調な進路実績や学科間の壁などから、これまで学校全体で危機感が共有されることはなかった。

 転機の一つは国が来年度から全国で導入する民間試験の「高校生のための学びの基礎診断」。あくまで内部資料だった従来の学力テストやアンケートと異なり、将来的には就職活動の相手先などへ結果が提示され、評価対象になる可能性がある。教員の意識改革は急務だった。

 学力向上に向けた授業改善プロジェクトを立ち上げたのは昨秋。先進校の視察や職員研修も実施し、生徒の知識や意欲をみる観点別評価などにも取り組む。

特色育み共通課題も改善へ

 ウィーン、ウィーン。心地よい音を響かせて小型無人機ドローンが体育館の中を飛び回る。操作しているのは工業科の3年生。実習授業の一こまだ。

 次世代資格の一つとしてドローンを使った農薬散布や空撮、操作のためのプログラミングについての授業を昨年から導入した。農薬散布の資格取得に必要な講習が受けられる高校は全国初。狙いは「特色ある教育をアピールし、他校との差異化を図る」ことだ。

 専門高校の存在感を高める取得資格の多くは将来、人工知能(AI)に取って代わられる恐れがある。3校統合後も同校は定員割れしている。学校の存続に向けて各学科の個性を伸ばしつつ、共通課題の基礎学力定着へ。嘉穂総合高の原点回帰の挑戦は続く。

総合型と総合学科 総合型高校は、普通科や工業科など複数の学科を併置し、学科の枠を超えて科目を相互履修(総合選択制)できる学校。学校の統廃合などにより設置され、福岡県内には現在、県立の4校がある。総合学科設置校と混同されやすいが、総合学科は普通科と専門学科を合わせた「第3の学科」として1994年度から導入。単位制を採用し、生徒は幅広い科目の中から進路希望に応じて選択、学習できる。多様な学びへのニーズもあって総合学科設置校は94年度の7校から、2017年5月時点で369校と増えている。

=2018/12/23付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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