三大感染症の今 インドネシアの挑戦(上) マラリア克服、最後の壁

西日本新聞

マラリア検査のため採血される女性。3カ月に1度、医師などが集まりこうした検診が開かれる 拡大

マラリア検査のため採血される女性。3カ月に1度、医師などが集まりこうした検診が開かれる

マラリアに効果的なのは蚊帳。妊婦のいる家庭に優先して配布されているが、まだ足りないという=いずれもスマトラ島ランプン州ハヌラ村

 インドネシア西部のスマトラ島には、雨期だというのに強い日差しが照りつけていた。

 海沿いにあるランプン州の中心部から車で1時間のハヌラ村。山奥の集落に、女性と子ども約500人が集まった。3カ月に1度のマラリア検診だ。

 普段は助産師しかいない集落だが、この日は広場にテントが張られ、近くの町から医師と看護師数名がやって来た。「ポシャンドゥ」と呼ばれる簡易クリニックで、国内各地で定期的に開かれている。

 1人ずつ指先から採血し、簡易検査器でマラリアの感染を確かめていく。「1日に15人くらい感染者が見つかる」と保健所職員。陽性反応が出たら、その場で服用薬を配布する。

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 この地域でマラリアを媒介する蚊の温床となっているのは、集落の隣にある大きな人工池だ。かつてエビの養殖場だったが、数年前に事業継続を断念した業者が放置していった。エビの養殖業が盛んなこの地域では、同様のケースが相次いでいるという。

 「業者は何もしてくれず、埋め立てる費用は自治体にはない」と地元自治体の担当者。政府からの援助で数カ月に1度、蚊の発生を防ぐ殺虫剤を池にまく。

 最も効果的なのは蚊帳だ。日本も出資する国際機関「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド=GF)」(本部ジュネーブ)が2003年から支援に乗り出し、妊婦がいる世帯を中心に殺虫剤を練り込んだ蚊帳の無料配布を始めた。これが奏功し、インドネシアのマラリア罹患(りかん)率は17年で千人中0・9人と、07年の2・89人から3分の1に減った。

 「マラリア対策は進んでおり、国際支援からの“卒業”が近づいている」。GFの支援の受け皿である官民組織「国別調整メカニズム」のサムハリ・バスワダン事務局長は自信を見せる。マラリアの感染地域は都市部から離れた離島など限られた地域の課題になりつつある。

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 とはいえ、対策に必要とされる資金の22%は調達のめどが立っていない。国内で賄える資金の比率は増えつつあるが、安定した取り組みにはなお国際支援を必要とする現状がある。この日の検診会場でも「家族全員分の蚊帳が欲しい」「壊れた蚊帳を直して」などの声が上がった。

 「支援を終える前の最後の一歩が難しい」。GF戦略投資効果局長を務める國井修医師はこう語る。長崎大熱帯医学研究所にも勤務し、世界各地で感染症の猛威を見てきた。

 「完全に抑え込まなければ再びまん延するのが感染症の恐ろしさ。そうなればゼロからのスタートになる。必要なのは資金だけでなく、予防から治療まで含めた総合的な対策だ」

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 結核、マラリア、エイズウイルス(HIV)の「三大感染症」の高まん延国であるインドネシア。20カ国・地域(G20)に名を連ねる新興国は、目覚ましい経済発展を背景に、感染症対策の国際支援からの「自立」が期待されている。1万3千以上の島が連なる人口2億6千万人の大国がいま取り組んでいる感染症との闘いを報告する。

=2018/12/24付 西日本新聞朝刊=