韓国就職難、若者は日本へ 2年で3割増、初の2万人超え 政権後押し補助金30億円 早期離職も多く

西日本新聞

11月に韓国・釜山市で開かれた日本企業の合同就職説明会。日本企業112社に対し、千人を超える韓国の若者が参加した 拡大

11月に韓国・釜山市で開かれた日本企業の合同就職説明会。日本企業112社に対し、千人を超える韓国の若者が参加した

 日本で就職する韓国の若者が急増している。韓国では就職難が深刻化しており、韓国政府は国を挙げて海外就労を支援。人材不足や訪日外国人の増加など日本側の事情もあり、日本で就労ビザを得て働く韓国人は2017年に初めて2万人を超え、15年から2年間で3割増えた。入管難民法により業務内容は海外取引や通訳など特定分野に限られるが、一方で違法な業務を命じる受け入れ企業や悪質な仲介業者も存在し、早期離職が問題化しつつある。

 佐賀県武雄市などでホテルを経営しているメリーランド(山口修代社長)は、社員約50人のうち6人が韓国人。30代の韓国人男性に支配人も任せている。

 「皆、日本語や英語が堪能。営業で韓国の旅行社を一緒に回ると、交渉がスムーズに進む。待遇などは日本人社員と同じ条件だが、早く昇格する人が多い」と山内茂樹専務。韓国人採用を始めた5年前はほぼゼロだった韓国人宿泊客が今では全体の約2割を占める年間約4万人に達し、売り上げ増に大いに貢献した。

 韓国の昨年の失業率は3・7%。20~24歳が10・9%、25~29歳が9・5%と若年層で際立って厳しい。対照的に日本の10月の有効求人倍率(季節調整値)は1・62倍と高水準で推移。11月に韓国・釜山市であった日本企業の合同就職説明会には、千人を超える韓国人の若者が参加した。

■採用に裏事情

 日本への就職熱が高まる一方で、韓国メディアによると、就職後1年以内に離職する韓国人が3~4割に上るという。「事務職のはずが、実際は市場での野菜の積み降ろしだった」。釜山市の男性(28)は2月、横浜市の青果卸業者に入社し、わずか1週間で退職した。

 社長に説明を求めると、採用時の「裏事情」を打ち明けられた。社長は、仲介業者から「事務職で募集すればビザが取りやすい」と助言され、うその業務内容を掲げて募集した。日本の入管難民法は「技能実習」を除き、野菜の積み降ろしのような単純労働を外国人に認めておらず、就労ビザの対象を「高度人材」に限っているためだ。

 北九州市の会社に就職した釜山市の別の男性(27)は、休暇が取りにくいことなど職場への不満から9カ月で辞めた。本当は早々に辞めたかったが、韓国の仲介業者から3カ月以内に辞めたら罰金約20万円を支払うよう言われていたため、我慢したという。

 早期退職を理由に「罰金」を取るのは韓国でも違法だ。男性は「就職先は政府系の就職情報サイトで見つけた会社だし、仲介業者も株式上場企業なので信用したのに」と憤る。

■体制の整備を

 日本に若者を送り出す側にも課題がある。韓国の人材を日本企業に紹介しているホスピタブル(福岡市)の松清一平社長は「韓国の一部の大学などが学生を“押し売り”するような実態もある」と打ち明ける。

 松清社長が問題視するのは、韓国政府が力を入れる海外就職支援事業「K-ムーブスクール」だ。韓国の大学や専門学校と提携し、語学研修費など学生1人当たり約80万円を各校に支給する制度。朴槿恵(パククネ)前政権時代に始まり、事業費は年間約30億円に上る。

 同制度は提携時に学校側へ支援金の7割が支給され、残り3割は学生の就職実績などによって「成功報酬」のような形で支払われる仕組みだ。一部の学校は支援金目当てに学生の希望や資質に合わない業種でも就職を勧め、失望した学生が早々に会社を辞める構図が生まれているという。

 松清社長は日本企業に対しても「人手不足だからと安易に外国人を雇用するのは誤り。業務マニュアルや社員教育制度など外国人人材の受け入れ体制を整えた企業は、日本人社員の定着率も高い」とくぎを刺す。 (釜山・丹村智子、池田郷)

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財閥系と中小の格差深刻 強い大企業志向

 韓国で日本企業へ活路を求める若者が急増しているのは、就職難だけが理由ではない。財閥系の大企業と中小企業の賃金格差や、住宅費高騰など複数の社会問題が背景にあり、日本以上に深刻な少子化の大きな要因にもなっている。

 韓国では2010年ごろから、就職難と低所得を理由に「恋愛・結婚・出産」を放棄する若者が増え「3放世代」と呼ばれた。以降も「人間関係・マイホームの購入」が困難な「5放世代」、「夢・希望」も諦めた「7放世代」へと深刻度を増している。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率は世界最低水準で、18年に「1」を割り込む見通しだ。

 17年の大統領選でも若者を取り巻く厳しい社会状況が争点になった。朴槿恵前大統領の雇用施策を批判し、若者の圧倒的支持を得て当選した文在寅(ムンジェイン)大統領は就任後、最低賃金引き上げなどの施策を打ち出した。だが、逆に企業が採用数を絞り込む悪循環を生み、直近の支持率は5割前後に低迷。特に20代男性の支持率が急落した。

 韓国は日本以上に受験競争が激しく、大企業志向も強い。調査会社が発表した18年の大卒新人の年間平均給与は大企業約400万円に対し、中小企業約270万円。中小は昇給も望めず、人手不足から長時間労働を強いられるなど負の印象が強いという。大学関係者によると「教育費にお金をかける親の期待も大きく、中小企業に入るなら日本など海外で就職する方が箔(はく)が付くとの考え方もある」。

 韓国の大学の就職支援担当者によると、学生は大企業の入社試験に失敗すると、大学院に進んだり、留学や専門学校に入り直して資格を取得したりして次の機会を目指す。男性は約2年間の兵役があり、日本ほど「新卒」重視の傾向はないが、就業しないまま30歳近くになり、結局、中小企業に就職する人も多いという。

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外国人の就労

 外国人の就労について現行の入管難民法は教育や経営、法律、科学技術などの「高度人材」に限って認めている。韓国人の多くは通訳や海外取引を担う「技術・人文知識・国際業務」の高度人材として在留資格を取得している。日本の技術を習得して母国に持ち帰る目的の「技能実習」を除き、単純労働は認められなかったが、来年4月1日施行の改正入管難民法は単純労働分野にも門戸を開く。

=2018/12/28付 西日本新聞朝刊=