「小遣い感覚だった」警察官と出版社、根深い癒着 昇任試験問題集執筆に現金

西日本新聞

 警察官が昇任試験の対策問題集の設問や模範解答を執筆し、民間の出版社から現金を受け取っていた。多くは警察庁出向時に上司のキャリアなどから依頼され、一部は所属先の警察本部に戻った後も続けていた。関係者によると、同社は各警察に影響力がある有力OBを顧問に招き、紹介された現職幹部を飲食接待するなどして関係を深めていたという。昇任試験を舞台に、民間企業と一部警察官がもたれ合う構図が浮き彫りになった。

 「本部の課長と夜会。同期や部下を紹介してもらった」「夜会で部数アップに貢献すると言って頂く」

 出版元の「EDU-COM」(東京)の内部資料には、現職幹部を飲食接待したとみられる記述があった。執筆のお礼のほか、執筆者の紹介や部下への購読呼び掛けを依頼する意図があり、数カ月おきに上京して飲食接待を受ける関西地方の警視もいるという。

 支払いリストに名前が載る愛知県警の現職部長は、取材に対し「上司から頼まれて書いたことはある。執筆者として部下を紹介したこともある。その過程で(同社側と)一緒に飲み食いして全額もってもらった」と接待を受けたことを認めた。

 「みんなでやって、みんなで使う小遣いが入ってくる感覚だった。部下にはライターじゃないんだからまひするなよと忠告した」とも強調する。

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 「業界歴は30年以上。豊富な人脈と、押しの強さで売り上げを伸ばした」。同社の女性社長を知る人物はこう語る。

 もともとライバル社の創業者だったが「経営をめぐる対立」(関係者)から退社し、2009年にEDU-COMを設立。初代社長には関東管区警察局長などを歴任した警察OBが就任し、1年後に女性社長に交代した。幹部社員は「(前の会社から)訴訟を起こされる恐れがあったので、親交があったOBの名義を借りた」と明かす。

 各警察の部長級OBが非常勤顧問に就任。元部下がいる警察署などに営業活動して急速に購読者数を伸ばした。熊本県警を部長で退職した顧問は、自身の役割について「社員が熊本に営業に来たときに各署の幹部を紹介して回る。それ以外の仕事はない」と話した。

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 リストによると、警察庁への出向と執筆時期が重なる警察官は100人超に上る。

 複数の警察官が、執筆のきっかけは「上司のキャリアから頼まれた」と証言し、同社幹部も「警察庁各課の理事官などを通じてお願いした」と説明。内部資料の中には、各課の担当者名が書かれた一覧表があった。

 「キャリアには昇任試験がない。法律は詳しいが実務経験に乏しく、現場の実情に応じた設問を作ることができない」。4年間で約250万円が支払われていたとの記録がある熊本県警の現職署長は、自身の関与については言葉を濁しながら、出向者が執筆する理由をこう説明した。

 警察庁は取材に「個別の事柄についてお答えすることは差し控えさせていただきます」とコメントした。

「EDU-COM」の社長と幹部2人を取材/一問一答

 2018年11月、「EDU-COM」の社長と幹部2人を取材した。主なやりとりは次の通り。

 ■社長

 ―警察官に執筆料を払っているのか。
 「会社つぶれちゃうよ。こういう出版社は全部やっていますよ。今に始まったわけじゃなくて歴史があるんですから」

 ―警察の裏金になっているのでは。
 「今はなってない。民主党政権になってからない」

 ―指摘に間違いはあるか。
 「間違いない。それだけのあれ(リスト)を持っていたら、いまさら間違いと言っても通らない」

 ■幹部2人

 ―複数の警察官が設問の執筆、現金授受を認めた。 「どこが悪いのか。副業は禁止されているが、アルバイトは禁止されていないと思う」

 ―リストには7年で1億円超支払ったとある。
 「実際に計算してみないと分からない」

 ―「こんなにもらっていない。額が上乗せされている」と言う警察官もいる。
 「それはありえない。100パーセントありえない」

 ―警察庁には正規に依頼しているのか。
 「正規というか善意でお願いしていた。警察庁には実務的な資料がそろっているし、実際に昇任試験を受けている人(地方警察からの出向者)たちもいる」
 「ロット(執筆量)が多いときは、何人でやっているかは分からない。詳しくは聞かない方がいいと思っている。(執筆料は)依頼した人に渡している」

=2019/01/08付 西日本新聞朝刊=

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