「種の保存」へ適正取引を 金子与止男氏

西日本新聞

元岩手県立大教授金子与止男氏 拡大

元岩手県立大教授金子与止男氏

 ◆象牙の国内市場

 絶滅が懸念されるアフリカゾウの密猟を防ぐため、象牙の国内流通を禁じる動きが世界的に進む中、日本は国内市場を維持している。こうした立場は少数派だが、私が強調したいのは「日本の選択は正しい」ということだ。

 国内市場の在り方を考える上で、まずは前提となる国際取引の説明をしたい。

 象牙の国際取引は1989年、ワシントン条約の締約国会議で原則禁止された。ただアフリカ南部では個体数が安定、または増えていた国もあり、これらの国の要望で例外的に国際取引が認められ、日本に象牙が輸出されたこともある。

 実はアフリカゾウ全体の6割弱に当たる31万頭が生息するアフリカ南部は絶滅の危機にはなく、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストも南部地域では絶滅危惧種から外している。

 個体数が激減した国や環境団体の主張を受けて国内市場閉鎖の動きが出始めたのは近年のことで、2016年のIUCN総会で、閉鎖を求める勧告が決議された。日本は、ゾウの保全に貢献しないとして、ナミビアなどアフリカ南部諸国とともに反対したが、直後のワシントン条約締約国会議でも、同様の決議が採択された。

 しかし、アフリカ南部でゾウは生活圏にも生息しており、畑を荒らしたり、人間を踏みつぶしたりしている。ゾウの狩猟による収益は、現地の学校や病院の建設、密猟防止などにも使われている。ゾウを含む野生動物の持続可能な狩猟を認めなければ、生計を立てるために農場や牧場などの土地利用が増えすぎ、結果的にゾウの生息地を奪うことにつながりかねない。

 各国が合法的な国内取引を完全に止めてしまうと、将来、ゾウの保全に成功した南部アフリカ諸国が国際取引を再開しようとしても、取引相手がいない、という事態を招くことになる。

 種の存続を脅かさないレベルでの商業取引は、その種と生態系の保全、そして地域住民の発展にもつながるはずだ。

 日本は1987年、絶滅の恐れのある動植物の譲渡を規制する法律を制定。93年にはその発展形としての「種の保存法」を施行し、昨年6月の改正法施行で、届け出制だった象牙取引業者を、審査が必要な登録制に変えて罰則も重くした。

 国内市場の維持を批判する国や環境団体の主張に反論できるよう、各種規制の実効性を高め、適切な取引が行われていると内外に示すことが大切だ。

 日本で違反事例が多いのは古物商やインターネットの売買サイトでの取引だ。

 一部のサイトの運営会社には自主的な規制が不十分なケースも見受けられる。これまで以上の取り組みを求めたい。運営会社は、未登録の象牙を出品するなど明らかに違法なケースはもちろん、印鑑などの象牙製品も出品回数や量によっては法に触れるため、出品を認めるべきではない。

 サイトの利用者は気軽に出品するケースが多いので、何が違法となるかを分かりやすく説明する必要もある。このような対策ができないならば、初めから象牙は扱わないほうが賢明だ。

 ワシントン条約の本来の目的は合法取引は奨励し、違法取引を排除するものだ。取引を全面禁止すると、闇の取引が横行する恐れもある。ルールに従って生業を営む人たちを守るためにも、環境省や経済産業省と警察が連携を強化し、監視と取り締まりを強化することが急務だ。

    ◇      ◇

 金子 与止男(かねこ・よしお)元岩手県立大教授 1953年生まれ。81年、東京大大学院修了。農学博士。在スイス・ワシントン条約事務局勤務などを経て、2006年から18年3月まで岩手県立大教授。

=2019/01/13付 西日本新聞朝刊=

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