豊岡市(兵庫県) コウノトリと生きるまち

西日本新聞

コウノトリの郷公園付近を舞う野生鳥。翼を広げた翼長は約2メートルに及ぶ 拡大

コウノトリの郷公園付近を舞う野生鳥。翼を広げた翼長は約2メートルに及ぶ

「ハチゴロウの戸島湿地」には野生放鳥された2羽が舞い降りていた 戸島湿地に設けられた観察棟 コウノトリの郷公園で公開されている飼育鳥 7カ所の外湯めぐりが楽しめる城崎温泉。円山川を挟んだ対岸に「ハチゴロウの戸島湿地」がある 野生復帰したコウノトリの生育環境を守るため栽培されている無農薬米 コウノトリ文化館では野生復帰までの取り組みが紹介されている

 国の天然記念物が白い翼を広げて田園の空を舞う。兵庫県の日本海側、但馬地方の盆地にある豊岡市は、国内で絶滅の危機にひんしたコウノトリの人工繁殖と野生復帰への取り組みで知られる。生息地を守るため田んぼには冬も水が張られ、中心部をゆったりと流れる円山川の河川敷はラムサール条約の保全湿地に登録された。「コウノトリと共生するまち」を旅した。

 豊岡市の人口は8万人余り。「但馬の小京都」と呼ばれた出石(いずし)の城下町や、1300年の歴史があるという城崎温泉など、風情ある街並みは観光客にも人気だ。冒険家植村直己さんの故郷で、元メジャーリーガー野茂英雄さんが設立した社会人野球チーム「NOMOベースボールクラブ」の本拠地と聞けば、さらに親しみが湧く人も多いだろう。

 コウノトリを間近に観察できる場所としてお薦めなのが豊岡盆地の東側、人工繁殖や放鳥のための訓練などを手掛ける県立コウノトリの郷公園だ。広さは千ヘクタール以上あり、現在はここで生まれた約100羽を飼育している。山腹の繁殖ゾーンなどは非公開だが、麓の公開エリアでは木の上で羽根を休めたり、長いくちばしで餌をついばんだりする姿を見ることができる。

 敷地内にあるコウノトリ文化館は、周辺の田んぼの生物観察会なども開いているという。市内ではコウノトリを含む280種の野鳥が観察でき「生物多様性に満ちた豊岡の自然も知ってほしい」と高橋信館長(64)は話す。

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 江戸時代は全国各地を飛んでいたとみられるコウノトリは明治時代、狩猟などで激減した。戦勝をもたらす「瑞鳥(ずいちょう)」として保護政策が進められたものの、戦後は巣をつくる松林の伐採や、餌場となる田んぼへの農薬散布、河川改修などで追い詰められ、国内の野生鳥は1971年に絶滅している。その最後の生息地が豊岡盆地だった。

 絶滅前の65年、野生鳥を捕獲して始まった豊岡市での繁殖の試みは失敗。旧ソ連から贈られた幼鳥を育て、人工飼育25年目に初めてのひなが誕生した。

 今も地元で語り継がれる伝説のコウノトリがいる。その名はハチゴロウという。

 飼育鳥の野生復帰に向けた準備が進められていた時期に大陸から日本に飛来し、2002年に豊岡盆地に住み着いた。飼育鳥の野生復帰に対して「水田が荒らされる」という反発もあった当時、ハチゴロウが優雅に空を舞う姿は市民の心を動かし、市はハチゴロウが餌場にしていた戸島地区の水田を買い取った。

 ハチゴロウの死亡が確認された07年以降も、水田は「ハチゴロウの戸島湿地」として保全され、野生復帰したコウノトリの観測地になっている。当時の担当課長で、湿地を管理するNPO「コウノトリ湿地ネット」代表の佐竹節夫さん(69)は言う。

 「コウノトリは人の心を揺さぶるんですよ。今のように自然を台無しにするような暮らしでいいんですか、と。それからどうするかは、人間次第ですね」

 ●メモ

 九州からのドライブは山陽自動車道・山陽姫路東インターチェンジ(兵庫県姫路市)を経由し、播但連絡道路で豊岡市へ。鉄道ではJR姫路駅から播但線で豊岡駅まで約1時間半。約160万年前の火山活動で形成された国の天然記念物「玄武洞」や、山陰海岸国立公園に指定されている海岸線なども見どころ。豊岡市役所=0796(23)1111。

=2019/01/09付 西日本新聞夕刊=