タイ、ごみ山の移民スラム 労働人口の1割330万人流入 不衛生、危険伴う重労働、低賃金 子どもに貧困の連鎖

西日本新聞

タイ人の労働者が敬遠するごみ処理工場で、ペットボトルの分別作業をするミャンマー人移民労働者のチョーさん=タイ・バンコク 拡大

タイ人の労働者が敬遠するごみ処理工場で、ペットボトルの分別作業をするミャンマー人移民労働者のチョーさん=タイ・バンコク

ごみの山に埋もれながら一日中働いても日給は約千円だ=タイ・バンコク ごみの分別で生計を立てているミャンマー人の一家。読み書きができない15歳のタックさん(右)は「学校に行きたい」とつぶやいた 「ごみ山のスラム」には、ミャンマー人の移民労働者が暮らす。幼い妹の手を引く少年にカメラを向けると、笑顔を見せた

 「東南アジアの工場」として発展してきたタイは移民大国でもある。豊かさを求めて近隣国から流入した移民労働者は330万人を超え、労働力人口の約1割を占める。従事するのは不衛生な環境や危険の伴う重労働などタイ人が嫌がる仕事。首都バンコク郊外のごみ処理場では、強烈な悪臭の中でミャンマー人たちが働く。その現場では新たな問題も生じていた。 (バンコク浜田耕治)

 バンコクの繁華街、スクンビット通りから約10キロ離れたテープラクサー地区は官民のごみ処理施設が集中し、ごみ分別に従事する約700人が暮らす。その6割を占めるのがミャンマー人移民だ。一帯は粗末な家屋が密集し「ごみ山のスラム」とも呼ばれる。

 うずたかく積まれたごみの脇で、手でペットボトルなどをえり分けていたのはミャンマー東部出身のチョーさん(36)。腐敗臭が鼻をつき、ハエの大群が顔にまとわりつく中、1日働いても日給は約300バーツ(千円)だ。「ミャンマーの故郷に仕事はない。不潔でも、ここで働くしかない」

 タイは1980年代から外資系企業の進出で工業化が進み、タイ人の労働力は製造業に流れた。その穴を埋めたのがミャンマーやカンボジアの移民だ。彼らは建設土木や水産業、農業などに就き、最低賃金で働く。タイ政府も事実上、移民労働者の受け入れを推進してきた。

 テープラクサー地区にあるごみ分別業者は20社。未分別のごみからペットボトルなどプラスチック製品を集め、チップに加工して中国に輸出する。いずれも経営者はタイ人で、その下で働くのはミャンマー人だ。「タイ人はつらい仕事を敬遠し、長続きしない。好調なタイ経済を底辺で支えているのは移民労働者だ」と地元の非政府組織(NGO)関係者は話す。

 一方、深刻な課題も浮上している。同地区では移民の子どもが学校に通わず、大人に交じって日給200バーツ程度で働いているのだ。

 移民を支援する日本のNGO「シャンティ国際ボランティア会(SVA)」によると、ミャンマー人向けの学校はバンコクにはほとんどない。タイ政府は2005年、国籍にかかわらず、移民の子どもが公立学校で義務教育を受けることを可能にした。だが、入学は校長の裁量に委ねられる上、移民の多くはタイ語を理解できず、制度そのものを知らない。教育への理解も乏しく、子どもを一家の「働き手」と捉える意識が強いのも原因の一つという。

 ミャンマー南東部から12年前に親と一緒に入国したタックさん(15)は妹(4)の世話をしながら、ごみ分別を手伝う。学校には通わず、読み書きもできない。「学校に行きたい。本を読めるようになりたい」と小さな声で言った。

 SVAの八木沢克昌アジア地域ディレクターは「タイに残っても母国に戻っても、教育を受けていなければ安定した仕事には就けない。国境をまたぐ『貧困の再生産』を断つためには、教育機会の充実が不可欠だが事実上、放置されている」と指摘した。

=2019/01/15付 西日本新聞朝刊=