仮病疑われることも…「電撃痛」と闘う女性 10万人に5人発症が発症の病

西日本新聞

左アキレス腱手術から3カ月後の原口さんの足。左が赤く変色している 拡大

左アキレス腱手術から3カ月後の原口さんの足。左が赤く変色している

鏡療法に取り組む原口さん。鏡に映る右足を左足と錯覚することで、左足の感覚を取り戻すために行う=昨年12月、福岡市西区 影絵を使ったリハビリを受ける原口さん(右)=昨年12月、福岡市西区 外須美夫・国際医療福祉大副学長

 「経験したことがない痛みを我慢する日々を送っています」。福岡市の病院職員原口ユミさん(38)から特命取材班にメッセージが届いた。原口さんは2013年、「複合性局所疼痛(とうつう)症候群」(CRPS)と診断された。左アキレス腱(けん)を断裂し、縫合手術を受けた後、突然激痛が始まった。捻挫や骨折など軽いけがを機に発症する例もあるというCRPS。発症率は10万人に5人の珍しい病気だ。どんな症状があるのか、現在もリハビリを続ける原口さんを訪ねた。

 体に雷が落ちたような「電撃痛」に加え、シャワーを浴びれば針が刺すような痛み、人とすれ違うときの風圧でもナイフで傷つけられるような激痛…。冷やしても、温めても、笑っても、怒っても左足が痛む。2児の母親でもある原口さんは「出産の痛みは『かわいい』と思えるほどです」と話す。

 きっかけは、保育士だった12年12月、親子レクリエーション中に左足のアキレス腱を断裂したこと。手術を受け、麻酔が切れた翌日の夕方、突然、体に気を失うほどの電撃痛が走った。横になることもできず、車いすで24時間過ごしたという。診断がつかずに病院を転々とし、半年後に大学病院でCRPSと診断された。医師の判断で、仕事は辞めざるを得なくなった。

 左足が赤や紫に変色したり、むくんだりする症状もあり、左足以外にも痛みが広がっているという。6年たった今も痛みを緩和する薬物療法のほか、激痛で目を覚まさないよう睡眠薬も欠かせない。我慢しながら事務の仕事に就いているが、週2~3回はリハビリのための通院も続いている。

 原口さんはある病院で厳しい運動療法を受け、つらい思いをした。2年前から福岡リハビリテーション病院(福岡市西区)で受けているリハビリは負担が軽く、症状緩和効果も少しずつ上がっている。「耐えられないくらいの痛み」を10として痛みの程度を記録する活動日記。発症以降、10が続いていたが、昨年12月上旬は「かなり痛い」の7、今年に入ると「日常生活を休み休みなら送ることができる」3~4まで落ち着いてきた。

 鏡療法は、垂直に立てた大きな鏡に右足が映るようにまたいで座る。鏡に映る右足を動かすと、左足を動かしていると錯覚するという。担当する理学療法士の平川善之さん(45)によると、CRPSの症状の一つとして、強すぎる痛みが長期間続いた場合、痛み自体は感じているのに「自分の足ではない」と捉える身体所有感の喪失がある。原口さんも「エレベーターに乗るとき、左足の動きだけ鈍くなり、扉に挟まれることがある」という。鏡療法は「錯覚により、左足があるというイメージを作り直すリハビリ」(平川さん)だ。

 左足の感覚を取り戻すために、平川さんが発案したリハビリにも取り組む。左足に触れられることへの恐怖心を和らげるため、影絵を使う方法だ。

 部屋を暗くし、原口さんの左足にライトを当て、壁に影を映し出す。そこに平川さんの手の影を重ね、触れているような影絵を作り出す。影絵を見ている原口さんは「錯覚でなでられている感覚がする」。昨年末からは、直接触れるリハビリも少しずつ始めているという。

 まだ痛みは続いているが、原口さんは「ここ2年でやっと人間らしい生活ができるようになった」。子どもにつらい顔を見せたくないと気丈に振る舞ってきたが、学校の保護者活動には十分に参加できない。見た目では分からない病気のため、周囲から仮病を疑われることもある。

 「この病気を知ってもらい、ちょっとでも寄り添ってもらえるような社会になってほしい」。原口さんは願っている。


 ●症状に個人差、心理療法も 国際医療福祉大・外須美夫副学長に聞く

 複合性局所疼痛(とうつう)症候群はどのような病気なのか。痛みのコントロールに詳しい国際医療福祉大の外(ほか)須美夫副学長(麻酔・蘇生学)に聞いた。

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 -発症のきっかけは。

 「骨折や捻挫、打撲などの外傷や手術の後にまれに発症する。手術後のギプス固定などにより四肢を動かさないことや、注射や採血で神経を損傷することなども誘因になる。神経が何らかの損傷を受け、神経が起因の炎症を起こしていると考えられているが、原因はよく分かっていない」

 -どんな症状か。

 「日本の判定指標では(1)皮膚や爪、毛のいずれかに萎縮性変化がある(皮膚がつるつるする、爪が細くなる、毛が生えなくなるなど)(2)関節可動域が制限される(3)見た目の状態と不釣り合いな痛み、針で刺すような痛み、知覚過敏(4)発汗の亢進(こうしん)または低下(体温調節がうまくいかない)(5)浮腫。ちょっと触れただけでもものすごい痛みがある」

 -発症率は。

 「年間10万人当たり5・4人。男女別では女性が同8・5人、男性が同2・1人で女性が男性の約4倍になっている」

 -治療法は。

 「患者により異なるが、薬物療法やリハビリテーションなど。全ての痛みは脳で感じているが、痛みが脳を変化させ、小さな刺激でも強い痛みを感じてしまう患者もいる。症状を和らげるために心理療法を取り入れることもある」

 -完治するのか。

 「早期に治る人もいれば、治らない人もおり、症状の程度も個人差がある。患者一人一人の痛みを理解し、相談できる医師を見つけることが大事だ」


=2019/01/14付 西日本新聞朝刊=

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