相席居酒屋は空腹満たす場 増える「堅実女子」

西日本新聞

「まずは生ビールから」。暮れも押し迫った夜、白のニット、チェックのミニスカート姿のユイさんは久しぶりに相席居酒屋でおなかを満たした=昨年12月30日、福岡市・天神 拡大

「まずは生ビールから」。暮れも押し迫った夜、白のニット、チェックのミニスカート姿のユイさんは久しぶりに相席居酒屋でおなかを満たした=昨年12月30日、福岡市・天神

「私」事典“ワタシペディア” 平成の終わりに(2)

 バブルの狂騒は今や昔。先が見えない平成という時代をたくましく生き抜くためには、堅実さも必要だ。

 土曜の午後8時半、福岡市・天神。黒のレースのトップスにピンクのショートパンツ姿の会社員ユイさん(36)=仮名=は、女友達を連れ、行きつけの店に入った。第一声は「おなかすいたぁ」。朝からクッキー1枚しか食べていない。

 席に備え付けのタブレット端末から、慣れた手つきで生ビールを注文。「えー、売り切れ。最悪!」。お目当てのサラダがないと分かると、テンションはがくんと落ちた。でも切り替えは早い。栄養豊富な枝豆とヘルシーな冷ややっこに、質より量のチャーハンとパスタを2皿ずつ、たこ焼き、ピザもとりあえず。「大食いで早食いなんだ」

 約20分後、席にやって来た店員の言葉にユイさんは表情を曇らせた。「男性3人と相席よろしいですか」

 ここは相席居酒屋。初対面の男女が相席し会話を楽しむ場所で、女性は飲み食べ放題無料。普段は外食かコンビニ弁当、自宅に炊飯器もない自炊率0%の彼女にとってコスパ最強の、貴重な栄養摂取の場なのだ。

 席に来たのは10歳下の公務員3人組。「いくつ? 27くらい?」と聞いてくる男性に「そんな感じでぇす」と小声で返した後は、質問されてもひたすらスルー。色気よりも食い気。食事に集中し、吸い込むように胃袋に収める。15分後、男性たちは諦め、断りもなく店を出ていった。

 「よし、次行きますか」。満腹になったユイさんは別の相席居酒屋へ入店。取り放題の駄菓子を小さなバッグにこっそり詰め込む。さらに取り出した別の袋にも器用に、隙間なく。「お菓子も結構食べるんだ。これでしばらく大丈夫」。きょう一番の笑顔を見せた。

 2005年、就活で受かった小売業界に進んだ。店の商品をメーカーから仕入れるバイヤーを任され、新人ながら着実に数字を上げた。休日も自主的に街へ市場調査に繰り出し、流行の把握と自分の勘を磨いた。

 しかし、会社の売り上げが低迷し、銀行から貸し渋りに遭った。給料も減った。08年秋のリーマン・ショックの頃、会社は倒産した。「自分がどんなに頑張っても会社はつぶれたし、自分で積み上げた評価も消えちゃった」。私生活を犠牲にしていたのに、だ。そのときを境に考え方が変わった。「だったら、今を楽しまなきゃ損じゃんって」

 相席居酒屋に通うのはお金がないからではない。結局プラスマイナスゼロだったけれど、株もやった。月々の給料も少しずつ口座にたまっている。「お金払わなくても食べられてお得じゃん、っていう軽ーい感じ」。定年後は旅行ばかり楽しんでいる両親が理想の家庭像だ。「親にも悪いし、そろそろ結婚しなきゃ」とは思うが、出会いの場でもある相席居酒屋なら、親への罪悪感も薄まる。朝方まで飲み明かせば、今を楽しんでいる実感も味わえる。

 「この生活もあと1、2年かな」。現在彼氏なし。進路未定の彼女にはこの空間が心地よい。

【メモ】将来不安「堅実女子」に

 使わなくても済むお金は節約し、趣味には身の丈の範囲内で惜しまず使う「堅実女子」が増えている。「独身男女の結婚に関する意識調査」(楽天オーネット、2017年)によると、35~39歳で「恋人がいない」と答えた女性は54.5%。「将来結婚できないと思う、結婚するつもりはない」は計43.1%に上り、堅実さの背景に不透明な将来への不安がのぞく。「将来のイメージは明るいですか」(博報堂生活総合研究所、18年)と尋ねた調査には30代女性の23.9%が「暗い」と答えた。ユイさんの世代はバブル崩壊後の就職氷河期に社会に出た「ロストジェネレーション」(失われた世代)にも当たる。

 平成に入り、育児休業法や男女共同参画社会基本法が施行される一方、男性の雇用の不安定さは深刻化。「結婚したい」「子どもが欲しい」という志向は男女とも強いが、晩婚化、少子化の傾向は続いている。

=2019/01/03付 西日本新聞朝刊=

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