水俣病、日本神経学会が異例の「見解」 意見照会受け、国の主張追認 国賠訴訟証拠に

西日本新聞

日本神経学会が、環境省の意見照会を受けてまとめた見解。従来の国側主張を追認する内容となっている 拡大

日本神経学会が、環境省の意見照会を受けてまとめた見解。従来の国側主張を追認する内容となっている

 日本神経学会(東京)が、水俣病を巡る国家賠償訴訟で被告の立場にある環境省の意見照会を受け、異例の「見解」をまとめていたことが分かった。水銀の摂取が終わってから発症するまでの期間など、訴訟で争点となっている3項目について、いずれも国側の主張を追認する内容。学会内で異論があるにもかかわらず、一部の研究者だけで見解を一方的にまとめた可能性があるとして、会員や原告側から批判が出ている。

「密室で議論」「一方的で非科学的」会員ら批判

 見解はA4判4枚。昨年5月、「メチル水銀中毒症に係る神経学的知見に関する意見照会に対する回答」として、環境省特殊疾病対策室長宛てに出された。

 この中で学会は、神経系疾患である水俣病について(1)診断は神経内科専門医による神経学的診察が必要(2)中枢神経の器質的病変による症候は(短期的に)変動することはない(3)メチル水銀中毒症におけるばく露停止から発症までの潜伏期間は「数カ月から、せいぜい数年」という考え方が医学的な定説-などと明記した。いずれも従来の国側主張に沿う内容。国は昨年11月、福岡高裁で係争中の水俣病被害者互助会の国賠訴訟に証拠として提出した。

 学会員でもある協立クリニック(熊本県水俣市)の高岡滋院長によると、学会には水俣病に関する診療ガイドラインはなく、見解の策定についてもオープンな議論はなかったという。「水俣病を診てきた医師として全ての項目に異論がある。パブリックコメントや従来の研究を検証することもなく、密室で議論しており異例」と批判。見解について「医学的にも論争がある事柄を十分な根拠も示さず、一方的にまとめており非科学的だ」と指摘した。

 学会関係者によると、見解の作成は2017年からワーキンググループによって進められ、18年4月の理事会で承認された。学会ホームページでの公表も検討したが、社会的な影響を考慮し見送ったという。同学会事務局は取材に「国から求められて見解を出した例は他にもある」と答えた。

 水俣病症候の変動性や発症時期については過去の訴訟でも争われ、司法判断は割れている。新潟水俣病を巡る訴訟で17年11月、東京高裁は国側主張を否定、判決が確定した。一方、昨年3月の東京高裁判決は国側主張をおおむね採用した。

 日本神経学会は神経内科医や神経学研究者約9千人で構成する臨床系医学会。新潟水俣病の研究者で、現行の認定基準策定に携わった故椿忠雄氏が第2代理事長を務めた。

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学会の在り方から逸脱

 水俣病被害者互助会の谷洋一事務局長の話 認定制度に代表されるように、水俣病には医学界の権威を盾に、行政が被害者を切り捨ててきた歴史がある。今回も国の主張に沿う見解を出させるために環境省が日本神経学会を利用した「出来レース」ともいえる。いろいろな学術的な見解があり、訴訟でも争われている中で見解を出すことは、独立機関としての学会の在り方からも逸脱している。

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【ワードBOX】水俣病被害者互助会の国賠訴訟

 胎児・幼児期にメチル水銀に汚染され水俣病を発症したとして、水俣病被害者互助会の未認定患者8人が国と熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めた訴訟。2014年3月、熊本地裁がうち3人を水俣病と認める判決を出し、福岡高裁で係争中。次回3月8日、原告側証人らの尋問が始まる。

=2019/01/16付 西日本新聞朝刊=

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