「何も間違っていない」2人が選んだ道 戸籍上は他人…でも“新婚”カップル

西日本新聞

2人の指に光るペアリングは、出会って最初の景子さんの誕生日に買ったものだ 拡大

2人の指に光るペアリングは、出会って最初の景子さんの誕生日に買ったものだ

「私」事典“ワタシペディア” 平成の終わりに(6)

 福岡市に住む幸男さん(34)と景子さん(33)=いずれも仮名=は“新婚”カップルだ。共通の友人の紹介で5年前の夏に出会った。初めて言葉を交わしたとき、「この子とずっと一緒にいたい」と思った彼は1カ月後、気持ちを伝えた。彼女は二つ返事で受け入れた。同棲(どうせい)を経て昨秋、彼の誕生日にゴールインした。

 幸男さんは飲食店の料理長、景子さんは病院の作業療法士として働く。駅から自転車で10分、メゾネットタイプの2LDKのアパートに住む。ネコのコロも一緒だ。しっかり者の彼女が掃除にいそしむ中、マイペースの彼は寝そべってテレビを見ている。長い休みが取れれば、沖縄の宮古島や座間味島で一緒にスキューバダイビングを楽しむ。

 彼、幸男さんの戸籍上の性別は女だ。25歳の時、性同一性障害と診断された。

 物心つく頃から自分の性別に違和感があった。「中学生が、よく同級生の男子で誰が好きか、とか言い合うでしょ。無理して男性の名前を挙げていました」。高校時代、同級生の女子と初めて交際した。自分の心の性が男であるとはっきり気付いた。当時、2000年代が始まった頃、ハリウッド映画や上戸彩さん出演のテレビドラマ「金八先生」が性同一性障害を扱って話題になった。それでもまだ認知度は低く、得られる情報も少なかった。「自分は一体何者なのか」。ふさぎ込んだ時期もあった。

 卒業後、飲食店に就職して自立すると、心の性を理解してもらえるように自ら動き始めた。両親に手紙でカミングアウトしたのは23歳の時だ。

 一方の景子さんは女性。交際してきたのは全て男性だ。幸男さんの事情は知っていたが、「人を好きになる時のどきどきがあった」と、交際に踏み出すことにためらいは無かった。

 だが、2人の交際を、誰もが最初から手放しで受け入れたわけではない。

 景子さんの両親は困惑した。「おまえは何を言っているんだ」。打ち明けた2人に父は言い放ち、その場を立ち去った。味方になってくれた3歳違いの姉が「最近、景子柔らかくなったやろ。幸男くんのおかげやん」と説得してくれた。友人や職場…、周囲に2人の関係を少しずつ伝えた。厳しい反応もあったが、大半は受け入れてくれた。

 幸男さんは胸を手術し、外見も男性に近づいた。手術のために貯金を続けていたが踏み切れずにいたとき、背中を押したのは彼女の言葉だ。「自分らしく生きていくためには前に進まんとね!」。幸男さんは「自分らしく生きていきたい」と強く思うようになった。

 それでも戸籍上の2人は他人。女2人が同居しているだけだ。子どもはつくれない。老後の不安も尽きない。部屋探しの際、敷金を払った後に大家から「やはり同性のカップルには貸せない」と断られもした。それでも2人は言う。「好きな人と一緒にいることは何も間違っていないし、恥ずかしいことでもない」

 パートナーになり1周年の今秋、式を開く予定だ。「僕らのようなカップルを支えてくれた人に感謝を伝えたい」と幸男さんは話す。

 手をつなぎながら、街の明かりが輝く冬の夜道に消えていった2人。その姿は、どこにでもいる夫婦だ。

 ◇ 

 職場で、バスの中で、カフェの店内で、私の隣に座っているあの人。実は私とは少し違うところがあるのかもしれない。違っていて当たり前の「ワタシ」たちの営みが、これからのページを紡いでいく。新しい年、平成は去りゆき、次へと向かう。あの頃、私たちは違いを少しずつ認め合えるようになった。そんなふうに振り返れる時代でありますように。

【メモ】カップル認定の市も

 LGBTとは、同性愛のレズビアンとゲイ、両性愛のバイセクシュアル、生まれつきの性別に違和感を持つトランスジェンダーの頭文字を取った、性的少数者を指す総称。電通の調査(2015年)によると7.6%、13人に1人がLGBT層に該当する。

 九州では02年、九州初となるゲイとレズビアンのイベント「博多夏祭り」が福岡市で開かれた。14年には性的少数者への理解を訴えるパレードが始まり、昨秋の九州レインボープライドには9000人が参加した。同市は昨年4月、LGBT同士のカップルを公的認定するパートナーシップ宣誓制度を開始。幸男さんと景子さんも宣誓し、受領証が交付された。今年4月、熊本市も同様の制度を始める。

 日本では同性同士の結婚は法律上認められていない。先進7カ国で同性カップルの権利を保障する何らかの法制度が無いのは日本のみだ。


おわり


=2019/01/07付 西日本新聞朝刊=

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